アメリカ101 第100回
一週間足らずに迫ったカリフォルニア州知事リコール投票の流れに、このところ大きな変化があり、ギャビン・ニューサム知事(民主党)がリコール(解任)を免れ、任期切れに伴う来年11月の定例知事選での楽勝・再選も視野に入ってきました。ニューサム陣営は油断は禁物と、潤沢な選挙資金を背景にリコール阻止に自信を強めていますが、共和党有力知事候補のラジオ・トークショー番組ホスト、ラリー・エルダーは各地での遊説集会で、数千人のドナルド・トランプ支持層まがいの熱烈な支持者を集めており、リコール選挙戦は終盤で熱を帯びています。
カリフォルニア州政治では少数野党に甘んじている共和党は、リコール投票という直接民主主義のツールを利用して、2003年に続いて歴史上2回目の知事解任を目指しました。元来の支持基盤が弱体であるという根本的な欠陥にもかかわらず、新型コロナウイルス禍での有権者のさまざまな不満を吸い上げて、反ニューサムの気運を高めるのに成功したかに見えました。これに対し民主党側は、リコール運動当初から、共和党側の絶望的なスタンドプレーだとして、ニューサム知事を含めて、これを軽視してきました。ところが保守派の論客として一定の影響力を30年にわたり発揮してきたラリー・エルダーが、共和党の“希望の星”として急浮上してきたため危機感を強め、本気でリコール反対の組織的な反撃に乗り出したことで底力を発揮、リコール運動の潮流を変えることに成功したかにみえます。
前回のコラムでは、最新の世論調査では知事解任では賛否が拮抗しており、ニューサム解任となった場合の新知事候補の人気投票ではエルダーが断トツのトップで、「エルダー新知事誕生」の可能性が高まってきたと記しました。だがその後、郵送済みの投票用紙で投票を済ませた有権者を対象とした聞き取り調査や、選挙資金集めでは、ニューサム陣営の優位を示す結果が出ています。
たとえば、超党派の世論調査機関として知られるカリフォルニア公共政策研究所(PPIC)が9月2日に発表した調査(8月20日から同29日に実施)では、リコール投票で票を投じる意向を示した有権者のうち、リコール賛成が39%、同反対が58%と圧倒的多数でリコール反対という結果が出ています。その党派別内訳では、民主党支持者は反対が90%の超高率に達しており、投票日の接近で、民主党支持者の間で欠けていたEnthusiasm(本気度)が“満開”となっていることを伺わせます。一方共和党支持者の間ではリコール賛成が82%という高率ですが、カリフォルニア州での全有権者の党派別内訳では、共和党支持者は4分の1程度で、過半数近い民主党支持者を大幅に下回っていることからすると、このハンディキャップを覆すほどの「ニューサム解任」の“大津波”は期待薄というのが現実でしょうか。そして同じく25%程度を占める“風見鳥”的存在の無党派層の間では、解任賛成が44%、反対49%と5ポイント差となっており、リコール派が強い向かい風に直面していることを示しています。
また「政治の糧」とされる政治資金/選挙資金の面でも、ニューサム陣営は6050万ドルという巨額の軍資金を集めているのに対して、エルダー陣営は830万ドルにとどまっています。しかも、ニューサム側の小口献金の85%が州内からのものである一方、エルダー側は全体の30%が州外からということで、後者の支持基盤のぜい弱さが明らかになっています。それが結果に反映されるのかどうか、投票日は9月14日です。
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(9/10/2021)