
エージェントが明かす裏舞台とサムライブルーの現在地
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いよいよ開幕が目前に迫った2026年FIFAワールドカップ。史上初となる3カ国(アメリカ・カナダ・メキシコ)共催、そして出場国が48カ国へと拡大される今大会は、サッカーの歴史を塗り替える「超巨大イベント」であり、世界中の熱視線を集めている。
ここ南カリフォルニアでも、ロサンゼルスのSoFiスタジアムがアメリカ代表の開幕戦を含む重要な舞台となるほか、アーバインが米国代表のベースキャンプ地に選ばれるなど、かつてない熱気が押し寄せている。この歴史的大会の直前特集として、アメリカでのプロ選手経験を持ち、南カリフォルニアを拠点に活躍するサッカーエージェント、林賢冬氏に話を伺った。ベースキャンプ地選びの舞台裏や、複雑な選手の移籍市場、そして「史上最強」と評されるサムライブルーの実力など、華やかなピッチの裏側で繰り広げられる「もう一つのW杯」の真相に迫る。 (聞き手・文:志村朋哉)

なぜ日本代表はナッシュビルを選んだのか
―大会期間中、参加国はベースキャンプ地に滞在して、試合に向けた練習やコンディション調整を行い、そこから試合会場に移動します。各国がキャンプ地を選ぶ上で、重要となる要因は何ですか?
現地の受け入れ体制、移動距離、気候などが要因になっていると思います。今回のW杯が今までと違うのが、3カ国開催であること。それと参加国が32から48に増えたので、とんでもなく規模の大きな大会です。しかも16カ所も試合会場があります。
―確かにアメリカ国内だけ見ても、たとえば日本代表が試合を行うダラスと、ここLAでは、移動するのも一苦労ですし、気候も大きく違いますよね。
MLSの選手たちと話しても、遠征は体に負担がかかると言います。東海岸に行ったりすると、LAからニューヨークまで飛行機で5時間かかって、移動で1日潰れてしまいますし、3時間の時差もあります。
―日本代表がテネシー州ナッシュビルを拠点とするMLSチーム、ナッシュビルSCのトレーニングセンターをベースキャンプ地に選んだ理由を教えてください。
トレーニング施設が充実していることが、まず挙げられます。飛行機で行けば、ダラスへもそんなに時間はかかりませんし、気候もダラスとさほど変わりません。あとナッシュビルには、約200もの日系企業が進出していて、市も日本代表を大歓迎してくれています。
―トレーニング施設は何を基準に判断するのですか?
まず選手たちがストレスなく過ごせる環境かどうかです。大きな国際大会では、試合だけでなく移動や時差など、知らないうちに心身へ負担がかかります。だからこそ、施設全体の居心地の良さや雰囲気は非常に重要だと考えています。
その上で、やはりフィールドの質は欠かせません。芝の状態や広さ、設備面など、実際の試合に近い環境でトレーニングできるかを細かく確認しています。
アクセスも重要です。ホテルからの移動時間が長くなると、それだけで選手たちの疲労につながります。できるだけ移動の負担を減らし、トレーニングやリカバリーに時間を使える環境を意識しています。
ほかにも、更衣室やリカバリースペースの使いやすさ、セキュリティ、周囲の環境の静かさなども確認します。
候補地によってバラツキがあり、地面がボコボコな施設を紹介されることすらあります。それに48ヵ国も来るので、良い施設は争奪戦になるんです。今回のナッシュビルは、実は日本が自ら探し当てた場所で、FIFAから紹介された施設ではありません。
勝敗を分ける「事前準備」
―林さんはどのような形で日本代表をサポートしているのですか?
大きな国際大会に出場する選手たちにとって、試合当日を最高のコンディションで迎えるためには、事前準備が非常に重要です。環境の違いや移動による負担も大きいため、選手が余計なストレスを感じることなく、サッカーだけに集中できる状況をつくることが欠かせません。
私はそのためのサポートを総合的に行っています。例えば、選手たちが安心して過ごせる宿泊先との連携、コンディション維持を考えた食事環境のサポート、トレーニング施設との連携など、細かな部分まで配慮しています。また、空港からホテルや会場までの移動手段の調整、現地スタッフや関係者とのコミュニケーションサポートなど、海外ならではの課題にも対応します。
選手たちがピッチに立った瞬間に、余計な不安や負担を感じることなく、自分たちのパフォーマンスに100%集中できる環境を整える——それが私の役割だと思っています。
―ロジスティクスの部分で、選手のパフォーマンスに一番影響が大きいのは何だと思いますか?
食事が一番大きな影響があると思います。いかに自分たちに合った食事をとれるか。それは日本代表だけじゃなくて他国の選手もそうです。なので、「いかに充実した食事を食べられるか」は、一番大事なところだと感じています。
―米国代表がアーバインのグレートパークをベースキャンプ地に選んだ理由を教えてください。
アメリカも気候を気にしていました。アメリカサッカー協会はLAギャラクシーのスタジアム内にもオフィスを構えていますが、他国も使うことがある施設なので、もう少し落ち着ける場所としてアーバインが候補になりました。最初はUCアーバインを考えていましたが、フィールドがだだっ広くて外から練習を隠すことが難しいのでグレートパークになりました。

エージェントが直面する移籍市場のジレンマ
―選手の代理人という立場では、今回のW杯をどう捉えていらっしゃいますか?
W杯に出て活躍すると、選手の価値はすごく高まります。控えとしてであっても、国の代表入りするだけで、市場価値は格段に上がります。世界最高峰の大会だと認識されていますから、周りからの見られ方も変わってきます。
―(ヨーロッパのクラブNo.1を決める)チャンピオンズリーグと比べるとどうですか?
ざっくり言うと、W杯で活躍した選手のほうが、スポンサーから「短期間で一気に世界的な一般層へ届く存在」として評価されやすいです。特に大会中と直後の〝跳ね方〟は、チャンピオンズリーグでの活躍より大きくなりやすいです。ただし、長期的で安定した商業価値は、毎年露出があるクラブ実績やチャンピオンズリーグ実績のほうが強いことも多いです。一番大きな理由は、視聴規模の差です。FIFAの2022年の大会レポートを見ると、決勝に至っては世界で約15億人が見たとされています。チャンピオンズリーグ決勝の平均ライブ視聴は約1・5億人です。スポンサー目線では、同じ〝活躍〟でもW杯のほうが到達できる母数が圧倒的に大きいということです。
サッカーファンは他競技のファンよりスポンサー商品を選びやすく、試合後にスポンサー商品を買う傾向が強いと知られています。つまりW杯で活躍すると、単なる競技成績以上に〝国民的ヒーロー化〟しやすく、それがスポンサー評価を押し上げます。
―では代理人としては、なんとしても自分の抱えている選手に活躍してほしい訳ですね。
そうですね。例えば、日本のJリーグにいる選手が、日本代表に入ってW杯で活躍すると価値が相当上がります。でも、あまりに選手の価値が上がってしまうと、移籍金が高騰してしまうので、選手が移籍できなくなくなってしまうケースもあり得ます。だから「あまり目立たないで欲しい」って思うような選手もいたりするんです。
―どういうことですか?
例えば、ある選手の価値が移籍金3億円くらいだとします。その選手がW杯に出場すると、違約金が設定されていない場合、日本の所属クラブが「いやいや、W杯に出た選手ですよ。移籍金が3億円なんてありえません。6億円です」なんて言い出すかもしれません。
―確かに、資金力があるクラブしか交渉の席に着けなくなりますね。必ずしも資金力のある主要リーグのクラブが、その選手のプレースタイルや育成環境として合っているとは限りませんよね。
はい、なので選手によって状況は変わります。もうすでにヨーロッパのクラブにいるような選手は、W杯でどんどん試合に出て活躍して、さらに市場価値を伸ばして上を目指せばいい。でも、これから海外に行きたいっていう選手などは、もちろんW杯でプレーするのは素晴らしいことなんですけど、金銭的な問題が出てきてしまうこともある。エージェントとしては、そうなった時にアプローチできるクラブが変わってくるわけです。

サムライブルーは「史上最強」なのか?
―日本代表は、けがで三笘薫がメンバーから外れました。どれくらい影響があるでしょうか?
1対1で試合を動かせる三苫選手の離脱は痛いですが、日本代表は全体の組織力と選手層が以前より確実に上がっており、チームとして戦う力は十分あります。優勝となると簡単ではありませんが、可能性がゼロではないところまで来ています。現実的にはまずベスト8、流れと勢いを掴めればその先も狙える力はあると思います。
―過去の日本代表と比べても「史上最高レベル」に戦力が充実していますよね。
今までで一番可能性のあるワールドカップだと思ってます。とにかく層が厚くて良い選手が揃っていますから。たとえ控えの選手であっても、出てくればワクワク感があります。ほとんどの選手がヨーロッパでプレーしていて、世界での経験値もあります。どんなにレベルの高い対戦相手でも、もう慣れているというか、実際に経験してしまっているという点で、10年前と比べても全然違うと感じます。
―もう「海外の有名選手に気後れする」という段階は過ぎましたよね。これまで日本がベスト16の壁を越えられなかったのは、どうしてでしょうか。
歴史や経験の差があったと思います。2018年の決勝トーナメント1回戦で日本相手に2点差をひっくり返して勝ったベルギーのような国にしても、歴史の蓄積による余裕があったのだと思います。日本もそのフェーズに入ってきていると思います。
―海外のクラブや代理人から注目されている日本の選手はいますか?
世界的に見て、技術と規律の面で、日本人選手が注目されていると思います。その中でも、佐野海舟選手や上田綺世選手は特に調子が良いので、W杯での活躍も期待されています。
―今回の大会で林さんが一番注目しているポイントを教えてください。
すごく適応能力が試される大会になると思います。移動の距離もそうですし、大会期間がそもそも長いので、層の厚いチームが有利になるのではないかと見ています。
―ズバリ優勝するのは、どこの国ですか?
日本です。
―願望込みの予想ですか?
かなりの願望込みです。でも、いいところまで行ってほしいなと思います。現実的には、アルゼンチンなんかは、やはり強いと思います。あとは、暑さがあるので、ヨーロッパのチームなどにどう影響するのかは気になりますね。
■林 賢冬(ハヤシ ケント)
スポーツエージェント。MXTO LLC代表。日米のルーツを持ち、滝川第二高校で全国ベスト16を経験後、渡米してUSLのプロチームでプレー。引退後はLAギャラクシーでのインターン、大手広告代理店、レッドブル・ジャパン等でスポーツマーケティングや選手マネジメントなどに従事。現在はアーバインを拠点に、LAギャラクシーの山根視来選手やDCユナイテッドの黒川圭介選手などのクラブエージェントを務め、日本人選手の海外挑戦を幅広く支えている。

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