【特別連載】タイヤ業界人生40年 失敗は失敗じゃない。 諦めたら失敗なだけ。

名門国立大学卒、業界大手の総合商社に入社、20代で輸出業務で世界30ヶ国に出張、米国で倒産寸前だった会社を立て直し、タイヤ業界で１０００億円を達成する世界企業に成長させた。その経歴を見ておそらくたいていの人が思うのが、自分とは別世界の話。しかし、これは超エリートがエスカレーター式に出世をして、業界の頂点に登り詰めた成功ストーリーではない。これは、世界経済に翻弄され、血と汗にまみれ、ある時は死の覚悟を味わったこともある、「限界と突破」の狭間で葛藤を繰り返しながら、人生を駆け抜けてきた人物のストーリーだ。そして、そこから私たちは何を思うのだろう。

新米商社マンの生き抜く術は、「見て盗め」

　１９７０年代の神戸―。坂道を下る高台から向こうに広がる港の景色。毎朝の通学路で見ていた何気ない一コマだが、その景色は今でもくっきりと水谷さんの脳裏に残っている。「生まれ育った神戸の街は、山と海に囲まれた坂道の多いところなんです。通学の途中で見える神戸の港は当時コンテナ船であふれていました。その船を見ながら漠然と『あぁ、あれに乗ったら遠い外国に行けるんだな、行ってみたいな』と憧れたものです」

世界へ物を売りたい

　「海外に物を売る貿易の仕事に就きたい」その夢は年を追うごとにより明確になっていった。神戸大学を卒業後、１９８４年、地元神戸にルーツを持つ日商岩井株式会社（現：双日）に入社。日本がバブル経済へと向かっていた80年代、貿易や輸出業務を担っていた商社は世界市場に製品やサービスを供給する役割を果たし、グローバル経済の中心的存在として成長した。それは商社にとって好機であると同時に厳しい競争を生み出した。商社マンたちはいかに取引をまとめ、ビジネスを拡大するかを常に考え、世界中との商談に追われた。特に海外との取引に携わる仕事は、商社マンにとって憧れの部署でもあった。そんな世界貿易の大海原へ夢を胸いっぱいに抱いた水谷青年は、飛びこんだのだ。

始発から終電まで。世界とテレックスの日々

　入社してすぐバックオフィスに配属された水谷さんが営業部門への移動を３年間熱望した結果配属されたのが、これっぽっちの興味もなかったタイヤ部門。それもたった３人で世界市場全体をカバーする小世帯。「営業で３年遅れの新人の私は、朝は始発で出社、夜は終電で帰る、それでもやり残しがあればほとんどの週末に出社してこなすというハードな日々でした」

　当時の業務の中心は、海外との交信に使われるテレックス（電信)。原稿をタイプライターで打ち込み、電信部に転送して、世界中と電信で商談をやり取りする。毎朝出社して世界各国から届いた長い帯になったテレックスを定規で一通ごとに切り、仕分けして部内の各担当者の机に並べる。部は30人ほどで、扱う商品はタイヤに自動車部品、NIKEなどのスポーツ用品、タバコ、絨毯、電極など。皆とても忙しく、新入りに誰も親切には教えてくれない。そこで言われたのが「見て盗め」。早朝の誰もいないオフィスで、デキる先輩たちのテレックスのやり取りを毎日毎日生きた教科書として読み込んで学ぶ。

どうすれば教えてもらえるか
　
　もう一つは、先輩との夜の飲み会。直接先輩に『教えて下さい』と頼んでもあしらわれるだけ。そこでお声がかかれば必ずお伴して、お酒が入りリラックスした頃合いに会話の流れを読みながら質問する。もし上手くクリックできたら、大切なノウハウまで教えてもらえた。駐在員となりアメリカでも一から市場やトレンドを学ぶにあたって、こうして培った教えてもらえる話のすすめ方に本当に救われる。
　当時の商社マンの実情から見て取れるように、競争社会の中でたくましくワイルドに水谷青年は成長していくのだ。
〈次号へつづく〉

■TOYO TIRESとは
TOYO TIRES はユニークな発想と独自の技術力をもって人の心を動かす「期待や満足を超える感動や驚き」を追求し、ドライバーの理想の走りを実現するブランド。乗用車用タイヤをはじめ、ライトトラック用タイヤ、トラック・バス用タイヤと、フルラインで展開している。

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