アメリカ101 第69回
希代の「お騒がせ大統領」ドナルド・トランプが退陣、歴代最高齢の新大統領ジョー・バイデンが就任して、クレイジーな「政治の季節」が終わりを告げたと思ったら、今度はカリフォルニア州が、新たな政争の渦中にあります。州議会上下両院で自党・民主党議員がいずれも3分の2以上という「スーパー過半数」を制し、また州政府の公選要職のすべてを占めるという寡占・ワンマン体制を確立して、「我が世の春」を満喫するはずの州知事ギャビン・ニューサムですが、知事解任請求のリコール運動(住民投票)という壁に直面、「前途洋々」であるはずの政治家としての将来に影を落としています。最近大手スーパーマーケットやショッピングモールの出入り口で、小さなテーブルを設置、署名集めをしているのが、それです。
カリフォルニア州での州知事リコール運動といえば、2011年に当時のカール・デービス知事(民主)が住民投票の結果解任となり、後任知事にアーノルド・シュワルツェネッガーが選出されたケースがあります。リコールは民主主義の源形態ともいうべき「直接民主主義」の具体例で、住民の間での争点について、その是非を問う住民投票を実施、過半数の賛成があれば、「民意」として行政府首長(知事など)解任や法律無効などの即時履行となる強力な民主主義プロセスです。このため、悪用/乱用を防ぐために高い敷居があるのですが、カリフォルニア州の場合は、「容易な民意反映を可能にする」と理由から、住民投票実施条件が緩やかであるため、さまざまなリコール運動が繰り返されており、票集め運動支援をビジネスとする企業もあるほどです。
ニューサム知事(2019年1月就任)リコール運動は、今回ですでに5回目です。これまでは、本格的に立ち上げるために必要な署名が集まらなかったために、正式なリコール運動とはなりませんでした。しかし今回は、全米最高の税率、死刑制度、ホームレス、不法移民対応などでの失政を理由に、正式なリコール運動となったもので、その後の新型コロナウイルス禍拡大への対応不備があったとする主張や、運動に賛同する富裕層からの大口資金寄付などがあって、運動が勢いをつけていました。
さらにリコール運動を加速させているのが、「夜の銀座」ならぬ「夜の三ツ星レストラン」エピソードです。日本では、「不要不急の外出自粛」呼び掛けにも関わらず政府・与党の自民党・公明党幹部4人が深夜まで銀座のクラブを訪れていたことで議員辞職や離党となり政界は大騒ぎですが、カリフォルニア州でも、「アメリカでも最も予約が困難なミシュラン三ツ星レストラン」として有名なナパバレーの「フレンチ・ランドリー」で、ニューサムが政治コンサルタントの誕生パーティーにそれぞれの夫婦連れで出席、マスク無しで盛り上がっていたことが明らかになり、面目丸つぶれとなりました。基本となる9コースで一人当たり300ドル、追加料理やワインで合計で軽く500ドルオーバーという超高級レストランでの優雅な一夜が、リコール運動に追い風となったせいか、1月末までに集まった署名は120万に達しました。住民投票実施には有権者総数の12%、145万が必要で、期限は3月17日です。署名はダブリがないか、有資格者の署名かなどを州政府が精査し、有効数に達すれば、住民投票実施の費用計算などのプロセスを経て、投票日程が決まります。運動主催者側によると、うまくいけば今年8月ごろに実施とのことですが、署名運動にはQアノンなどの極右政治勢力の関与が伝えられるほか、リコール運動に詳しい専門家によると、署名集めの流れや無効署名の比率などを勘案すると、期限までの署名達成には多く難関があるとのことです。いずれにせよ、カリフォルニア州では共和党が上げ潮にあるとみられており、来年秋の中間選挙でも一段の追い上げも予想され、ニューサム知事にとって悩ましい「政治の季節」ではあります。
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
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