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アメリカ101 第213回
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今年はどうやら日本では「税」と「アレ(A.R.E.)」、そしてアメリカでは「rizz」と「authentic」ということのようでしょう。
毎年歳末になると、その年の総決算ということで、さまざまなメディアが、十大ニュースのリストアップを先頭に、多様な企画を年中行事として取り上げるのが慣習となっていますが、中でも関心が高いのが、その年の世相を象徴するか、あるいは、それを代表する「新語・流行語」の発表です。メディアでの報道ぶりは、選ばれた言葉の話題性によってさまざまですが、必ずニュースとして取り上げられるのは、流行語に興味を示す人が多いことを物語っています。 近年日本では、「ネット流行語大賞」「ネット流行語100」「今年の漢字」といったところが有名です。中でも1984年に始まった、“元祖”とされる「ユウキャン新語・流行語大賞」と、1995年からの「今年の漢字」の知名度が高いようです。
一方海外、とくに英語圏では、イギリスのオックスフォード大学出版局(Oxford University Press)とアメリカの英語辞書出版で知られるメリアム・ウェブスター社(Meriam Webster)の「word of the year」が、この分野での双璧といえます。
「税」を選んだのは、日本漢字能力検定協会が主催する「今年の漢字」です。主催団体の性格からして、「世相を漢字1文字で表す」という選定基準の範囲内であるため、カタカナ表記やアルファベットが対象外となるので、包括的ではありません。しかし「1文字」であるというインパクトに加えて、毎年原則として「漢字の日」とされる12月12日に、京都市内の観光名所のひとつである清水寺の奥の院舞台で、貫主の森清範が巨大な和紙に揮毫するというパフォーマンスもあって、広くメディアで報道されるために、抜群の知名度を誇っています。
選定は公募を通じて漢字一字決めるのですが、今回は15万票近い応募があり、「税」は約6千票を集めました。今年は、ふるさと納税の運用ルール厳格化や酒税改正など税金にまつわる話題が多かったためのようです。2位は、今年の夏が気象統計をとり始めて以来最高の酷暑だったためか、約400票差で「暑」でした。
一方「アレ(A.R.E.)」は、今シーズンの阪神タイガースのチーム・スローガン。「Aim!Respect!Empower!」の頭字語で、ローマ字読みの「アレ」がセントラル・リーグ優勝を意味する隠語として使われましたのは皆さんご存じの通りです。
そして「アレ」の“霊験あらたかさ”を引き続生き享受したいというので、阪神球団は来季の新スローガンを「A.R,E.GOES ON」(えーあるいーごーずおん)としたようです。「柳の下の泥鰌(どじょう)」とならないように祈りましょう。
さてアメリカの「word of the year」ですが、オックスフォード英語辞典(Oxford English Dictionary=OED)が選んだ「rizz」は、Z世代のスラングである、「charisma」(カリズマ)の中間の発音である「リズ」を表記したもの。具体的には「自らのセンスや魅力でロマンティックな、あるいは性的なパートナーを惹きつける能力」を意味しています。 メリアム・ウェブスターも、これを流行語のひとつに含めていますが、トップは「authentic」で、それにはいくつの意味があると指摘。それは「虚偽(false)やイミテーションではない」ものであり、「real」「actual」といった単語と同義語で、「自身のパーソナリティや意識(spirit)、あるいは性格に誠実である」ことも意味していると強調、近年の「fake news」騒ぎのような「フェーク氾濫」の世相に警鐘を鳴らす役割を演じているようです。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(12/13/2023)