患者のために行動する それが私のプロフェッショナル

成相 麻子
Asako Nariai

Scripps Memorial Hospital La Jolla
心臓外科オペ室ナース

 

「心臓の手術は必ず一旦心臓をとめなければなりません。やるべきことがすべて終わって再び心臓が動き出す瞬間に立ち会うときが最もやりがいを感じるとき」冷静なやや低い語り口から繰り出される彼女の言葉には心を鷲掴みにされた。がんの手術は機能を取り除く喪失であるのに対し、心臓は機能を回復させる手術。「喪失ではなく回復だから好きなんです」なるほど。そんな風に世界が見えているのか。

成相麻子さんが医療の世界に進んだきっかけは「高校の保健の先生が個性的で面白かったから」卒業後は先生と同じ聖路加看護大学へ進学。看護大を出ると看護師・保健師の免許がとれ、保健師免許で産業保健師(民間企業勤務の保健師)として働くこともできる。「それがわかった上で進学しました」しっかりした人だ。卒業後は東京の虎の門病院に勤務した。12年在職したうち後半6年間は心臓外科オペ室(手術室)主任。オペ室ではない他のフィールドに挑戦したいと思っていた矢先、夫の渡米が決まる。

「米国の医療現場で働けるというのは私にとってチャンスなのでは」前向きな彼女はそれを好機と捉えた。当時「キャリアを捨てることが恐くなかったのか」と尋ねたことがある。彼女の答えを忘れたことはない。「12年かければこれだけのことが出来るという自信があった。日本を離れても努力すれば私はひとかどの人物になれると信じていました」

2016年渡米。彼女はその言葉通りの人生を突き進む。子供を育てながら勉強し、2017年12月加州の看護師資格を取得。2019年9月からナーシングホーム(医療を受けられる介護施設)で働いた。ずっとオペ室で働いてきた分、異世界だった。歯がない高齢者の言葉は分かりにくく、認知症患者は話の筋道がなく理解するのに苦労した。しかしこの時間が彼女の世界を広げる。「最初は不本意なフィールドでも経験を積むことは大事です」

同年12月に現在の職場Scripps Memorial Hospitalに転職。心臓外科オペ室のナースとして再び働き出した。毎日3~6件の開心手術を4部屋でまわす。日米の医療現場の違いを聞いた。「患者に訴えられることもあるので、特にカウント・記録には気を使います。オリエンテーションでマスシューティングへの対応や興奮した攻撃的な患者家族への対応をロールプレイで学んだのはカルチャーショックでした」オペ室の緊迫したなかでも敢えて空気を読まず言葉に出して確認する。「患者の安全のために一つずつのコミュニケーションが何より大切。だから流してしまった時は落ち込みます。患者のために行動できるかが私の存在意義ですから」

彼女を貫く信念はどこまでも真っ直ぐだ。その信念が今日も誰かを救っているんだろう。

 

出勤は毎朝6時。1回の手術には5~6時間の時間がかかる。1日12時間シフトで週3日勤務。「私がシフトの時は子どもたちの朝ごはんは夫の担当です。週1回はオンコールがあります」オンコールとは、勤務体制ではないが緊急の際には出動できるよう待機していること。本当に頭が下がる。麻子さんのような人たちのおかげで、医療の現場はまわっているのだ。


「仕事のことよりも最近は子どものことの方が気になります。日本語の保持とか」母親としても奮闘している日々。子どもたちに、お母さんの姿はどんな風にうつっているのだろう

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