ママになっても 才能を活かしてほしい

マリンバ奏者

高田 直子

Naoko Takada

 

ぽわん、ぽろん、ぽろろん。まるみを帯びた深い音色。スタジオに続く木製扉の前で耳を澄ませて立ち止まった。マリンバという楽器をご存知の方はどれくらいいらっしゃるだろう。マリンバは、いわゆる木琴の一種。木琴の音は固く乾いた音であるのに対し、マリンバのそれはやわらかい。

マリンバ奏者の高田直子さんのスタジオを訪れた日は、空には雲ひとつなかった。開け放たれたドアの向こうにマリンバが見える。想像よりもずっと大きい。ビブラフォンもドラムもピアノもあった。光が注がれる楽器はどれも本当に神々しい。

マリンバはピアノよりも鍵盤数が多く感じたので尋ねてみると、すぐさまピアノの前に座り「そんなことないです。ほらね」と慣れた手つきで弾いてくれた。なるほど、マリンバとピアノはまったく違う楽器にみえるが、考えてみれば同じ鍵盤打楽器だ。たたくことで音を出す。

 

出会いは8歳。母親と一緒に行った雛祭りコンサートだった。「最初は大きな家具だなって(笑)そこで聴いたのは『熊蜂の飛行』でした」マリンバに出会ってしまった直子さんは「習いたい」と親に頼んだが、最初の頃は一時的なことだろうと相手にされなかった。けれども変わらぬ情熱に母親は「1回だけね」と約束して教室に連れて行ってくれた。

その1回が2回になり3回になった。そのうちに忘れるだろうと思った親の期待とは裏腹に、彼女の熱意は薄まるどころかどんどん増した。父親は、新聞紙を切って音の出ない即席マリンバを作ってくれ、彼女はそれで練習した。遂にマリンバを買ってもらったとき、あまりの嬉しさにマリンバの下で寝たほど。

先生についてめきめきと力をつけた彼女は、11歳で初めて舞台に立った。しかし中学の時に一度マリンバを辞めている。「舞台に立って以降は、周りからプロになるの?どうするの?と何度も聞かれ、それがすごく嫌だったんです」

早稲田大学の心理学科に進み、一年間の交換留学でカリフォルニア大学ノースリッジ校(CSUN)を訪れたことがその後の運命を大きく変える。早稲田を中退し、CSUNの音楽学科に編入し、再びマリンバと向き合う日々が始まったのだ。「一日6時間、5年間集中すればプロになれる」と信じ、昼夜問わず練習に身を捧げた。当時の自分の言葉をどう思うかと聞いたら「生意気だったと思います」と笑った。

 

2002年、ニューヨークで開かれたヤング・コンサート・アーティスト国際オーディションで優勝したことを機にプロとして始動。「20代のときは仕事を選べなかったけど今は選ぶことができて幸せ。子供と過ごす時間が何より大事です」交換留学初日に出会ったご主人との間には2人の可愛い子供がいる。「才能があるのに子育てでやめてしまう人を私はもったいないと思う。ママになっても自分の才能を活かしてほしい」彼女の演奏に勇気をもらう理由がわかった気がした。

 

カラフルなマレット(バチ)。コンサートには常に40本は持参する。両手で最大6本(基本的に4本)のマレットを自由自在に操りながら繰り出される音楽は神業だ。「今年9月にイタリアで行われる国際コンクールの審査員をする予定ですが、コロナウイルスの影響でどうなるか心配しています。音楽を通して出会った世界中の仲間たちが私の財産です」

マリンバ奏者 高田直子さんはUniversity of Southern California でマリンバ講師としても活躍中。「できるだけ短い時間で高い成果を出せるような指導を心がけています」。ビクターより『Marimba Meets the Classics』(CD)発売中。

詳しくはHPへ。www.naokotakada.com

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