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アメリカ101 第153回
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しばしば安直に使われる「世紀の・・・」という表現があります。前回のコラムでも、イギリスのエドワード8世とアメリカのウォリス・シンプソン夫人の「世紀の恋」に触れましたが、そのグローバルな意味合いからして、文字通り、それに相応しいのが、9月8日に亡くなったエリザベス2世の国葬でしょう。ロンドンのウェストミンスター寺院での葬儀には、世界中の約200の国・地域の元首・首脳が集ったのですが、その内訳は国王などの君主が18人、大統領が55人、首相が25人で、国連加盟国193か国のうち167か国がなんらかの代表を派遣するという「世紀の葬儀」となりました。
儀礼上、イギリス政府の招待がなければ出席できないので、「欠席」となったのは、アフガニスタン、ベラルーシ、ミャンマー、ロシア、シリア、台湾などです。その理由はさまざまで、ロシアの場合はウクライナ軍事侵攻で外交面での制裁の対象となっているほか、ミャンマーは軍事政権下にあるとの理由です。台湾については、正式な外交関係がないためですが、特例として、外務省での弔問記帳が認められました。
これまで「世紀の葬儀」と言われてきたのは、同じイギリスの国王エドワード7世の1910年の葬儀でした。ビクトリア女王の長男で、多くのヨーロッパの王室と姻戚関係にあったことから「Uncle of Europe」(ヨーロッパの伯父)とも称されました。それだけに、この際に集ったのはドイツのウイルヘルム2世を先頭にヨーロッパの君主7人で、葬列には乗馬で参加するという一大スペクタルでした。また同国王は在位中に日英同盟を推進するなど、知日派としても知られたことから、その葬儀には日本からは皇族の伏見宮貞愛親王が参列しています。
今回のエリザベス女王の国葬で、通常なら当然参列すべきなのに欠席した君主がいます。「微笑みの国」タイのワチラロンコン国王(ラマ10世)です。同女王の日本訪問は1975年5月の1回だけですが、タイには、国民に愛されたプミポン前国王(ラマ9世)との親交もあって2回にわたり訪問しており、本来ならば国王が列席して、礼をつくすべきと思われます。 ところが現国王は、近年ほぼ通年ドイツのバイエルン州にある高級ホテルを貸し切り、数十人の愛人たちと暮らすという放蕩三昧の生活で、その奇妙な振る舞いは国際的なスキャンダルとして広く流布されています。その一端は
YouTube(英語版)で垣間見ることができます。タイ王室の資産は世界一といわれているものの、世界中のもの笑いのたねです。タイ国内でも反王室感情がみられるものの、不敬罪が厳しく適用されることから、表面化していません。
エリザベス女王が複数回訪問した国家は、英連邦諸国を除けば、ごく限られた数でしょう。そんなタイは、その「五体満足」な国王が、国葬のあるロンドンからわずか1000キロ少々のところに住みながら、国葬には駐英大使が出席という“無礼”で、恥を欠く結果となっています。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(9/20/2022)