ロサンゼルスの新たな課題 「道路占拠」と「無法状態」

.

.

アメリカ101 第149回

.

「アメリカ最悪の犯罪都市」「ギャング抗争の首都」といった様々な“悪名”に甘んじてきコンプトンが、このところ「street takeover」の震源地として“脚光”を浴びています。

まったくの新語で、日本語での定訳はありませんが、さしずめ「道路占拠」とも言うべきでしょうか、多数の改造車が突然コンプトン市内あるいは隣接する地域の交差点に集結、信号無視はおろか、傍若無人にクルマを操作して、タイヤを軋ませて黒煙をあげ、急旋回させるという曲芸を披露するという“遊び”です。インスタグラムなどのSNSを通じて、そのパフォーマンスの時間と場所を
情報を拡散させることで多くの見物人を集める“お祭り騒ぎ”です。もちろん現場一帯は車両通行止めとなり、最悪のケースでは、近くのコンビニなどの店舗に押し入り、商品を略奪するといった狼藉を働くというわけで、一瞬にして、アメリカ第二の大都市圏で、「娯楽産業の世界の首都」(The
Enterteinment Capital of the World)であるロサンゼルスの一角が“無法地帯”と化すありさまです。

その典型的な例が、8月15日深夜すぎに発生した、ダウンタウン南に位置するウイローブルック地区にあるセブンーイレブン店鋪での略奪です。突然多くのクルマが付近一帯に集まってきて道路を占拠、クルマから出てきた暴徒が店舗内になだれ込み、陳列商品を次々と持ち去ったという事件です。パトカーで駆けつけた警官が現場に到着したのは暴徒が去ったあとで、これまでのところ逮捕者はゼロ。日本でも、いわゆる暴走族による一般道路や高速道路での無謀走行などの違
法な運転行為が大きな社会問題になったことがありましたが、ロサンゼルスの場合は、一般道路を占拠して、集まった野次馬の喝采を浴びながら、急発進やジグザグ走行、「doughnuts」(ドーナッツ)と呼ばれる最小の円周での急速回転運転を繰り返すという危険運転を繰り返すのに加えて、一種のタガが外れた「お祭り気分」で店鋪略奪にも及ぶという、比較にならない「イベント」であ
るのが大きな違いです。

「street takeover」といえば、7月29日号の当コラムで取り上げた、ダウンタウンの「6番街高架橋」の建て替え工事完成後のオープニングをめぐる一連の騒です。「世界の首都ロサンゼルスに相応しい高架橋 “暴走族”に占拠される」というタイトルでしたが、これは「道路占拠」ならぬ「橋占拠」で、数週間にわたり通行止めが繰り返されました。「道路占拠」がロサンゼルスで新たな社会問題として注目されるのは、 警察による取り締まりを意に介さない、無法承知の、警察をあざ笑うような犯罪行為であるためです。リベラルな良識派として知られ、すぐに「法と秩序」論
を持ち出すことはない、寛容的なヒューマニズムが浸透しているロサンゼルス・タイムズ紙も、さすがに「street takeover」の狼藉ぶりには苦々しい思いなのか、8月23日付の紙面で、一面中央に「A scene of lawlessness」(無法状態)という表現を見出しとした2200語以上の長文の記事を掲載しました。「Street takeovers in L.A.;“A scene of lawlessness”」(ロサンゼルスでの道路占拠、“無法状態”)が見出しです。そして、現場での、その“無法状態”を示すような大きな写真4枚が添付されています、夜間白煙をあげて走るクルマを、片手を挙げて喝采するように見送る十数人の人影や疾走するクルマ、取り締まりに出動した5−6台のパトカーといった夜景写真を見ると、その“無不法状態”ぶりが伺えます。ロサンゼルスは新たな解決すべき課題を抱え込んだようです。

.

.

.

アメリカ101をもっと読む

ホームに戻る


著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(8/23/2022)

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。