世界の首都ロサンゼルスに相応しい高架橋 “暴走族”に占拠される

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アメリカ101 第145

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 このニュースに接して、すぐに頭に浮かんだのが「民度」、そして「民度の低さ」です。そのニュースとは、ロサンゼルスの新しいシンボルとして、これ以上に素晴らしフォトジェニックな(写真映えする)光景はないと喧伝される「6th Street Viaduct」(6番街高架橋)が、6年間にわたる建て替え工事を経て完成、710日から一般通行に供用されたものの、暴走族に事実上占拠され、繰り返し通行禁止となっている状況を指しています。このコラム執筆時点では、25日までの週末夜間の3日間にわたり一時閉鎖となりました。ロサンゼルス市警(LAPD)の発表では、「不審な動き」(activity)とのことですが、車両のドラッグレースやオートバイや自転車による危険なスタント(曲技)を指しています。 

 この全長1100メートル、全幅14メートルの高架橋が無法地帯化しているのを受けての措置で、先のコラム(第140回)で取り上げた独立記念日での一般市民による違法花火打ち上げと同様に、ロサンゼルスではなく、アメリカの各地で頻発する法律に違反するさまざまな公共の場での無法状態のひとつです。 

 「法の秩序」を乱すものであることを知りながらも、多数の市民が違法行為に参加しているのは「市民の誇り」(Civic Pride)の欠如であり、「民度」の低さを示すもので、現時点でのアメリカの民主主義の危機的状況を象徴ものと言えそうです。その「民度の低さ」ぶりを示す、今回の高架橋での乱暴狼藉は、YouTubeで「6th Street Viaduct」と検索すると、余すことなく目撃することができます。 

 ちなみに、このような違法行為を表現するのに、日本語では「民度が低い」という」便利な表現がありますが、英語では、これにピッタリと該当するようなものはありません。日本語と英語の最新の信頼できる辞書としては、ネット辞書である「英辞郎」がありますが、そこでは「standard of living and cultural level」とあります。またグーグル検索では単に「cultural standard」となっています。 

 またネット百科辞典「ウィキペディア」では、「特定の国や地域に住む人々の平均的知的水準・教育水準、文化水準・行動様式の成熟度などを表すとされる指標」説明があります。だが、通常の項目では表示される「他の国語版」は存在せず、「民度」が日本語特有の表現であることを伺わせます。しかし、「民度」という表現が、日韓併合(1910年)による朝鮮半島の植民地化や後進国中国との関連で生まれものとみられることから、当初から対象を見下しているニュアンスがある点は留意しておくべきでしょう。 

 1932年の旧高架橋は耐震構造とはなっておらず、大規模な地震がロサンゼルスを襲った場合には崩落の危険が指摘されていたことから、2016年取り壊されて、今回の「世界の首都ロサンゼルスに相応しい高架橋」の建設となったものです。 

 ダウンタウンの西に位置するボイルハイツからロサンゼルス川を跨いで、リトルトウキョウの南にあるアートディストリクトを結び、両側にそれぞれ10個のアーチを有する優雅な高架橋は、西側から眺望すると、高層ビルが立ち並ぶ景観が眺められる絶好な場所に位置しています。ガルセッティ市長がオープンニング・セレモニーで語ったように、2028年のロサンゼルス夏季オリンピックで聖火ランナーがここを走り抜けていくのをイメージすれば、胸がワクワクするわけで、オープニング直後の一連の騒動が今回限りであって欲しいと願うばかりです。 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(7/26/2022)

 

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