【手記 ケース6】カリフォルニアのザ・おとり捜査〈前編〉

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トーランス在住 T.Kさん(40代男性 飲食店勤務)

カリフォルニア州でリカーライセンスを持っている店(レストラン、居酒屋、バー、グローサリーストア、コンビニエンスストア etc..)であれば必ず関わる州酒類管理局(California Department of Alcoholic Beverage Control)、通称ABC。カリフォルニア州では、アルコール販売免許は同局から発行されます。ABCの許可を得て免許を取得しないことには、お店でアルコール飲料を提供することはできない。そんな絶対的な権利を持っているABCですが、そのほか様々な権限があり、その大きな役割の一つに「未成年者(21歳以下)へのアルコール飲料販売取り締まり」があります。

 

忙しさを理由に怠った「IDチェック」の罠

飲食店に勤める私は10数年前、そんなABCの力を身をもって知ることになりました。当時、私はサウスベイの海の近くにあるレストランでサーバーとして働いていたある夕方のことです。開店間もない時間に一人で店に立っていた私は、2組のお客さんが同時に来店したので、ばたばたと急に慌ただしくサーブすることになりました。

1組のテーブルは日本人らしい若者たち、もう1組のテーブルはアメリカ人の人たちでした。私は「参ったな・・・俺一人しかいないけど、できるだけ早くオーダーを取らないといけないし」とあせるように、まず日本人のお客さんのテーブルで注文を聞きました。その中の一人の若い男性が「僕はビールをお願いします」と言いました。その人の見かけは20代ではあるだろうけど落ち着いていると感じた私は「20代半ばくらいなか? 21歳以上だろう。超忙しいし、まぁIDチェックしなくてもいいか」とIDチェックをせずにビールを出しました。

 

取締官の突入! そして有罪判決

その瞬間です。突然5~6人の人が店の中にドドドっと入ってきて、というか突入してきて、そこに立っている私にバッジを見せながら「我々はアルコール・ビバレッジ・コントロールだ。あなたが今、お酒を出したのは未成年者です。これは犯罪です!」と言い、その場でビールを片手に持ったその少年と私は一緒に写真を撮られ、違反チケットを渡されたのです。

あまりに突然の出来事で私は何が何だか混乱していましたが、冷静に振り返ると、私がビールを出したその少年は客のふりをして店に入り、ビールを注文した「おとり捜査」だということがわかりました。

 

開放的な夏の抜き打ち捜査

噂にはよく聞いていたんです。特に5月ごろからのビーチシーズンに入ると毎年、レドンドビーチやハモサビーチ、マンハッタンビーチといったサウスベイやカリフォルニアのビーチ周辺のレストランやバーには、おとり捜査が入り多数の店が検挙されているということを。また、これも噂ですが、19歳や20歳の少年少女がおとりとして捜査に参加していることも。特に夏場になると海辺の店ははかきいれ時で忙しくなって余裕がなくなりますし、海に遊びに来ている人たちもいつも以上に開放的になってお酒の量が増える。お互いにアルコールに対して気持ちが緩む傾向にあることを捜査官たちは知っているのです。

 

さて、違反チケットを渡された私は後日、裁判所で有罪判決を受け前科が付きました。酒を未成年者にサーブした私自身は1000ドルの罰金、そして私が勤めていたレストランのオーナーも1000ドルの罰金。なんとかレストランの営業停止は免れました。

 

一見、罰金を払って終わり。それだけに見えるかもしれませんが、この時についた「前科」がその後の私の人生に重くのしかかってくるのです。

 

(後編へつづく)

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