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アメリカ101 第133回
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カリフォルニア州の地方財政状況が「大変なこと」になっています。地方財政といえば、慢性的な赤字穴埋めに苦慮するのがパターンですが、今回は、その「大変なこと」とは赤字対策ではなく、正反対の「おカネが余って仕方ない」という潤沢な地方財政を指します。有力ネット・メディアの「ポリティコ」などは「カリフォルニア州の財政黒字が爆発」(California’s budget surplus has exploded)といったセンセーショナルな見出しで伝えており、ギャビン・ニューサム州知事や州議会では、その用途で検討を進めています。
州議会で絶対多数派である民主党指導部は4月28日に、納税者1人当たり一律200ドルの現金リベート(還付金)支給計画を発表しました。また州政府も、最近のガソリン価格高騰対策として、所有車両1台につき400ドルを補助金として給付する計画を明らかにしており、今後数カ月はカリフォルニア州の住民にとっては、州政府からの「朗報」待ちという嬉しいことになりそうです。
カリフォルニア州財政といえば、アメリカでも州税率がトップクラスであるにもかかわらず慢性的な財政赤字状態が長年続いてきました。歳入確保には税収がカギで、2年前からの新型コロナウイルス禍で経済活動が大幅に落ち込み、失業率が上昇することで税収減が避けられず、大幅な予算削減を余儀なくされることが予想されました。しかし株式市場が活況を呈し、州内の主要産業であるハイテク企業部門での収益上昇で一転して大幅な税収増となりました。
今年1月の州議会予算分析室(LAO)の試算では黒字は最大290億ドルでしたが、4月現在の歳入見通しに基づく最新推計では、今後14カ月で680億ドルにも達するとのこと。
これを受けて州議会民主党はとりあえず、このうち80億ドルを納税者への還元として1回限りの200ドルの現金支給計画を明らかにしました。納税申告でのAGI(調整後総所得)が25万ドル以下の納税者に対して1人当たり200ドルを還元するほか、扶養子女一人当たり200ドルを支給するというものです。4人家族の標準世帯の場合で合計800ドルとなります。
一方ニューサム知事は3月に、ガソリン価格高騰への対応策の一環として、州内の登録車両1台につき400ドルのデビットカード(1人当たり2台まで、計800ドル)の給付や、3カ月限定で公共交通機関の無料乗車といった措置を提案しています。その際には州議会の一部議員グループが、車所有の有無にかかわらず納税者ひとり当たり400ドルを支給する計画を発表。
さらには、7月1日付で予定されているガソリン税値上げ(ガロン当たりで推定3セント)の中止や、ガロン当たり51セントの現行物品税の12カ月停止措置、富裕層は対象外とすべきといった提言もあるなど、財政黒字分の用途でさまざまなプランが明らかになっています。
民主党議員の間では中小企業救済策や教育予算の拡充、高騰する住宅費への補助、環境対策、インフラ整備などへの振り向けを求める声があります。さらに現行の困窮世帯への「福祉補助計画」(CalWork)での追加補助として、身体障害への援助が検討されています。また現行税制では、合法的に居住する移民ではありながら、そのステータスの関係で、低所得者としての受給対象外となっている人々への給付も検討中です。
予想外の財政黒字拡大での福祉予算増は、アメリカで代表的なリベラルな「ブルー州」としてのカリフォルニア州の面目躍如といったところですが、一方では「福祉バラマキ」を指摘する声もあり、「分かち合う精神」の在り方にも目配りが必要でしょう。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(5/3/2022)