ニューヨーク・タイムズ紙がリポート アメリカ警察の交通違反の取り締まり方

 

アメリカ101 第108回

 

クルマ社会であるアメリカで、一般市民が日常的なシチュエーションで警察官と接点がある機会が一番多いのはドライバーとしてではないでしょうか。何らかの形で交通事故に巻き込まれたり、またスピード違反やヘッドライトやテールランプの点灯不備といった車体整備の不良で、「運悪く」パトカーに見つかって運転中に路肩に停車を命じられるといった経験は、アメリカで生活すれば不可避であり、それに慣れてくるという「アメリカでの日常生活の知恵」のひとつなのでしょう。

 しかし、そんなのんびりした認識に冷水を浴びせるような 警官による何らかの理由での日常的な車両停止(Ttraffic stop)で、銃器なナイフといった凶器も携帯していないドライバーや同乗者が過去5年間に400人が警官に射殺されている)というショッキングなニュースが話題になっています。

その引き金となったのは、1031日付のニューヨーク・タイムズ紙の「多くの地方自治体が財源確保でパトカーによる交通違反反則金徴収に躍起」「警察による車両停止が致命的になる背景」といった見出しで、一面から始まって6頁にわたる総字数7800字という2本の長大な調査報道記事です。

 その内容は、南部および中西部各州の多くの地方自治体が財源補填愛のために、テールランプの点灯不良や車線の違法変更といった軽微な交通違反の摘発を地元警察に指示、交通反則金徴収増を図る一方で、パトカーによるアグレッシブな交通違反摘発で、路肩停車した車両のドライバーが警官の強腰な職務質問に反発して争いとなり、丸腰のドライバーが撃たれるという事件が跡を絶たないという現状を、過去5年間にわたる綿密な取材で浮き彫りにしたもの。全米の多くの新聞が同紙を引用して伝えており、昨年5月のミネソタ州ミネアポリスでのジョージ・フロイド殺害事件を契機に高まった「警察改革の必要性」の根の深さを示すものとして注目されています。

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 現場の警察官が置かれている厳しい環境は、本誌のコラム「現役警察官YURIのつぶやき」で触れることができます。その14回で交通切符(チケット)について言及されていますが、ルイジアナ、ジョージア、オクラホマといった主として南部各州では、人口が数百人から数千人という小規模な地方自治体財源確保のため、日本での交通違反摘発の「ネズミ捕り」が遊戯にも思えるほどの、厳しい摘発が行われているとのこと。交通取り締まりが「交通安全」のためではなく、はっきりと「反則金目当ての財源」となっており、ルイジアナヘンダーソン(人口2000人)では、2019交通違反反則金収入が合計170万ドルで、一般会計予算89%を賄っています。サンタモニカからフロリダ州ジャクソンビルまで走る高速道路インターステート(州際)I10号に接する要衝にある町で、ヘッドライト故障、ブレーキランプ故障といった、本来ならばInfraction(微罪)として故障を直せば反則金もない些細な違反として処理されるものについても反則金の支払いを求め、支払いを拒否すれば裁判沙汰にするという扱いで罰金を徴収するという強面ぶりです。

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 しかし、上には上があるというわけで、同じルイジアナ州ゲージタウンなどは、実に財源の91%が反則金といった有様です。アメリカの地方自治体行政をカバーする専門誌「Governing」によると、アメリカ全土で少なくとも反則金の財源比率が10%を上回る地方自治体は、ほぼ600にのぼり、うち少なくとも283の自治体では20%オーバーで、連邦国家である「合衆国」として、地方分権を大幅に認めるアメリカらしい実態です。

些細な交通違反を摘発すれば、当然ながら怒り出すドライバーもあり、緊迫した場面で身の危険を感じた警官が「自衛のため」に銃器を発砲するケースも出てくるわけで、その死者が5年で400人という数字になるのでしょう。

 一方では、同じ期間に同様な状況下でドライバーに射殺された警官が280人という数字もあり、取り締まり側の危険あって、アメリカの厳しい現実を反映しています。

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(11/5/2021)

 

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