「お騒がせ政治家」テッド・クルーズ上院議員 今回はロサンゼルス市政にも影響か

アメリカ101 第105回

 

またまた、あの「お騒がせ政治家」テッド・クルーズ上院議員(共和党、テキサス州選出)が、大ニュースの渦中にあります。今年2月テキサス州を襲った記録的な寒波で緊急事態宣言が発令となり、外出自粛が呼び掛けられる最中に、ウソを重ねて家族を連れてメキシコ有数の保養地カンクンに避寒するという愚行で、深夜のテレビ・トークショー番組などでさんざんな嘲笑の的となった顛末は、今年226日号付けの当コラム(第72回)で取り上げました。 

  

 だが今回は、そのクルーズがロシアとドイツを結ぶガスパイプライン建設プロジェクトをめぐり、アメリカの国益に反するとして、その阻止のためにジョー・バイデン大統領に経済制裁を課すよう求め、その実現までは、同大統領が指名した駐日大使含むほぼすべての大使人事や各省の主要ポストの上院での承認を事実上妨害する動きに出ています。アメリカの国家安全保障問題に関係する重要案件なのですが、その余波はロサンゼルス市政にも及んでいます。 

  

 というのも、バイデンが7月に駐インド大使としてロサンゼルス市長エリック・ガルセッティを指名した人事も、上院での承認が先送りになっているため、後任市長選びを含めて市政が宙ぶらりんの状態に置かれているからです。まだ50歳という若さのガルセッティが、アメリカ第二の大都市のトップにとどまらず、中央政界に進出する野心を抱いているのは周知のことで、2008年の大統領選挙では一期目の新進上院議員だったバラク・オバマを前年春に早々と支援を表明、応援遊説に出掛けるほどでした。そしてドナルド・トランプ大統領が再選を狙った2020年選挙に絡んで、すでに2017年ごろには民主党の対立候補としての出馬の憶測が流れるほどでした。結局、20201月に地方首長としては最初にバイデン支持を正式表明、副大統領候補選びに加わるなどバイデン陣営に接近、当選後には運輸長官ポストを打診されたこともありました(ちなみに、運輸長官には、同じく地方首長であるインディアナ州サウスベンド市のピート・ブティジェッジ市長を指名)。 

  

 そして駐インド大使への指名は、来年末で任期切れとなるガルセッティにとって、ワシントン政界を視野に入れた、「地方首長から、外交にも精通した中央政治家への躍進」の箔付けとなるはずでした。だが、クルーズの横やりで、大使任命の前提である上院での人事承認が前途不明とあって、このところロサンゼルス市政への影響が議論の的となっています。3期目がないロサンゼルス市長のポストとあって、市役所のガルセッティ周辺では、次の定職を求めて辞任が続出、ロサンゼルス・タイムズ紙の調べでは、スタッフ数は前年比で15%減とのこと。ガルセッティ自身は大使指名以来4回ワシントンを訪れ、「大使研修」も受けていますが、事実上の人事棚ざらしで、後任市長選びも進まず、「別れることにしたものの同居を続ける夫婦関係」みたいなものと形容する向きもあります。 

  

 しかしロサンゼルス市政の停滞に比べれば、バイデン政権の外交布陣の停滞は国益全体に影響するとあって、クルーズの大使人事サボタージュの影響は計り知れません。バイデンは10月第一週現在で、64ヵ国に駐在する大使を指名していますが、上院外交委員会を経て同本会議で人事承認となったのは国連大使とメキシコ大使の2人だけ。バイデン政権外交政策の軸となる中国へ派遣されるはずのニコラス・バーンズ元国務長官や、2年以上空席となっている駐日大使ポストに指名されたラーム・エマニュエル前シカゴ市長(オバマ政権での大統領首席補佐官)も待機状態のまま。クルーズが問題視するロシアからのガスパイプランは、両国にとって国家プロジェクトで、完成間近であり、バイデンもドイツとの友好関係維持の観点から、そう簡単に阻止とはいかず、対応に苦慮、打開策の模索が続いています。

 

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(10/15/2021)

 

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