「牛に引かれて善光寺参り」 アイルランド カトリック聖地巡りの旅

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アメリカ101 第201回

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8月下旬から9月初めにかけて約2週間にわたりアイルランドを旅行してきました。「牛に引かれて善光寺参り」といった感じで、家人の「カトリック聖地巡り」のお供として、首都ダブリンを皮切りにアイルランド全土の観光地などの見どころを訪れる団体旅行に加わったのですが、われわれにとっての“目玉”は、1879年に聖母マリアが姿を見せた「出現」があったという、北東部メイヨ郡クノックにあるクノック聖堂(Knock Shrine)での参拝でした。

大方の日本人にとって縁のない、ローマ・カトリック教徒にとっての“Big Deal”(重大事)である奇跡の「聖母マリアの出現」(Apparition)とはどんなものなのか、「異教徒」として学ぶことの多かった旅のおさらいです。

宗教宗派を問わず「聖地巡礼」は人類の歴史を通じて絶え間なく続けられてきました。日本では、お伊勢参りが有名ですが、近年では外国人も多く加わる四国八十八箇所巡礼が盛んになっています。海外では、キリスト教では古くから聖地エルサレム巡礼が“定番”で、加えてローマ・カトリック教の総本山バチカンと聖ヤコブの遺体が収められたスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラの聖堂の巡礼を加えた3大巡礼地が知られています。またヒンドゥー教徒にとってはガンジス川の水が聖水とされ、川沿いの聖地への巡礼は欠かせません。

そしてローマ・カトリック教では、聖母マリア出現が奇跡として喧伝され、世界各地で出現現象が確認されたとする場所が各所にあります。

有名なのはピレネー山脈沿いのフランス・ルルドでの聖母の出現です。1858年のことで、現在ではカトリック最大の巡礼地として知られます。それを描いたのが、ヘンリー・キング監督によるハリウッド映画「聖処女」(The Song of Bernadette)。バーナデットに扮したジェニファー・ジョーンズの代表作のひとつで、必ずしも事実に即したストーリーではありませんが、Apparitionなるものを知るには絶好の映画です。

現地には世界中から病気の快気を祈る信者が訪れ、また好奇心からの観光客が多数足を運ぶ一大観光地となっています。

ルルドに次いで巡礼者が多いのが、ポルトガル首都リスボンの北120キロのファティマでの聖母マリア出現を受けた聖堂などの一連の建物です。1916年に、地元の3人の子供の前に聖母マリアが姿を現したとのことで、ローマ教皇庁が2017年には「出現」を公認するという「お墨付き」のApparitionです。

「聖母マリアの出現」という“現象”は世界中で数多く報告されており、最終的には教皇庁が公認すれば、晴れて“奇跡”となるわけですが、ペンディングのケースが幾多あるようです。一般に流布するフレーズに「信じるものは救われる」というのがありますが、信仰についての庶民の知恵をうかがうことができます。

日本でも、海外に知られた「出現」現象として「秋田の聖母マリア」があります。1973年に秋田市内のカトリック在俗修道会「聖体奉仕会」で、修道女の手の平に、出血を伴う十字架型の傷が現れたとのこと。キリストの磔刑の際についた「聖痕」(スティグマータ、Stigmata)と思われ、また、建物内に収められている木製の聖母マリア像からは、カトリック教にとっては意味のある101回の落涙や芳香現象があったとされ、天使を何回も目撃した修道女もいるとのこと。

筆者はこれまでに、このような“奇跡”があったとされる場所や教会、聖堂のほとんど訪れてきました。いずれも「らしい」感じの雰囲気に満ちた場所でしたが、素直に“奇跡”が事実であるとの受け取り方はできないのは、信仰心が欠如しているからでしょうか。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(9/12/2023)

 

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