ホームレス対策での成果を誇示 ロサンゼルスバス市長

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アメリカ101 第191回

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「それなら実際に現場を見てみよう」というので、3連休中の6月18日の日曜日に、ダウンタウンの「スキッドロウ」を含めて交通渋滞のない市内の“要所”を2時間少々クルマで回ったのですが、「目立った変化は確認できなかった」というのが実感でした。過去半年でホームレス状態にあった「1万4000人以上」の市民を収容したというロサンゼルス市のカレン・バス市長の発表を受けて、走行中のクルマから観察できる“路上生活者”が住む路上テントなどを見て回った結果です。

もちろん、路上生活者は、いわゆるホームレスの全部ではないのですが、「いつも見かけるところにホームレスがいる」という状態には大きな変化を確認することはできず、「ホームレス問題の解決」の長い道のりを改めて感じさせました。

昨年12月に就任したバス市長は、その直後から市政の最優先課題のひとつに「ホームレス問題の解決」を掲げ、「Inside Safe」(屋内での安泰な生活を)というスローガンのもとに、市を挙げて取り組む姿勢を強調しています。そして就任以来半年が経過した6月1日に市庁舎で記者会見に臨み、ホームレス状態にあった1万4000人強の人々を路上生活から施設に移動させ、そのうち約30%に相当する4332人を恒久的な住居に住ませることになったと発表。

さらに追加の1万49人については、ロサンゼルス市およびロサンゼルス郡の、それぞれの計画に基づいて、暫定的な住居に収容したとしています。この数字は、昨年同期比では27%増となるもの。バス市長は就任初年度中に1万7000人のホームレス解消を公約としてきたのですが、このペースは順調な進捗状況を示すものといえます。だが、クルマでの通勤者が毎日目にするような路上生活者の“テント村”の数には大きな変化はないのも現実です。

一方アメリカ全体では、ロサンゼルスのように、ホームレス対策が効果を発揮しているとされる都市とは対照的に、多くの大都市でにホームレス人口が引き続き増加傾向にあります。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙が全米の150の州や都市のデータを分析したところでは、今年に入ってからホームレス増加が顕著で、とくにシカゴ、マイアミ、ボストン、フェニックスなどで加速しているとのこと。その背景としては、住宅コストの上昇、新型コロナウイルス感染拡大で進められた暫定的な救済策の終了、安価なアパートの供給状況が限定的といったことが挙げられています。  例えば、オハイオ州コロンバスでは毎年1月25日をホームレス調査日としているのですが、今年は前年比22%増の237人でした。

地方自治体が強力な権限を有するアメリカでは、ホームレス問題は基本的に州レベルで対応する課題となっています。そして住宅関連分野では連邦レベルでは住宅都市開発省(HUD)が担当官庁となって、各州の対策状況の情報交換などを担当していますが、それによると、ホームレスは過去数年は増加率が低かったものが、近年は急上昇を記録する州がみられるとのこと。

例えばミネアポリスという大都市を含むミネソタ州ヘネピン郡では、昨年のホームレス数は家賃補助や強制立ち退き措置停止の効果で、約15年前に調査を開始して以来最低水準にあったのですが、今年になって24%の急増を記録しました。

カリフォルニア州では、州政府がホームレス急増で住宅補助金を大幅増額したものの、貧困に起因するホームレスに加えて、オピオイドやフェンタニルといった鎮痛剤に関連した依存症を原因とするホームレスが増えるという複雑な問題を抱えていることもあって、サンディエゴ郡では昨年ホームレスが1万人をオーバーする前年比22%を記録したのですが、一方では、ワイン産地として有名なソノマ郡では逆に22%減少するというさまざまな様相をみせています。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(6/20/2023)

 

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