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アメリカ101 第185回
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ノードストロームといえば、本社がシアトルにあるハイクラスのファッション小売業者、有数の大型百貨店チェーンとして有名で、各地の大型ショッピングモールでは欠かせない店舗ですが、今月初めに、サンフランシスコ・ダウンタウンにある2店舗を今年夏までに閉店すると発表、同地での治安悪化に嫌気をさした動きではないかとの憶測を生み、話題となっています。従業員向けのメモでは、「過去数年のダウンタウンマーケットのダイナミクス(dynamics)が変化を遂げたため」と説明しています。しかしサンフランシスコでは近年、大規模店舗が営業を取りやめるケースが続いており、ここ数年万引きや集団的な店舗略奪行為といった凶悪犯罪が大きく伝えられ、サンフランシスコのイメージにダメージとなっていることもあって、ロサンゼルスを含めたアメリカの大都市でのリテール業界のあり方とも関連して注目を浴びています。 ノードストロームは、スウェーデンからの移民が、カリフォルニアのゴールドラッシュと並んで有名な19世紀末のカナダ・ユーコンのクロンダイクでのゴールドラッシュで“一攫千金”を手にし、靴店から事業を拡大、現在のようなアメリカ最大の高級百貨店に築いたチェーン店舗です。 サンフランシスコのダウンタウンでは、5階建てのデパートとディスカウント・アウトレットのラック(Rack)を展開しています。今回の2店舗閉店については、「このような決定を下すのは極めて残念だが」としながらも、「ダイナミクスの変化」を挙げているのですが、具体的には、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、客足が鈍くなるという他の都市の店舗での同様な要因に加えて、ハイテク産業で働く住民が多く、在宅勤務の比率が高いのが影響していると見られています。 サンフランシスコのダウンタウンと、それに隣接する地域では、オフィス勤務体制に戻る比率が低く、在宅勤務を続ける従業員が多いために客足の回復が鈍く、ユニオンスクエア周辺では、H&M、ギャップ、アバクロンビー&フィッチ、クレートアンドバレルなど十数軒が過去3年間でシャッターを降ろしているほか、今年になってから、ホールフーズ・マーケットやウォルマートといった大型リテール各社も都市圏での店舗を閉店する計画を発表しています。 ノードストロームが8月末の閉店を予定している店舗のひとつは、ウェストフィールド・サンフランシスコ・センター内のモール・デパートで、過去35年間営業を続けてきました。同社は閉店声明の中で、「店舗での客足に影響を及ぼす『変化の続くマーケット事情』」を閉店の理由のひとつとしてあげています。しかし、この「事情」なるものが明白ではありません。だがサンフランシスコ市長であるロンドン・ブリード(女性)が発表した、これに関連する声明では、はっきりと、このモールでの治安悪化が背景にあることを指摘。「(買い物客の)身の安全(safety)」を含む諸問題でモールのオーナーであるユニベイル・ロダムコ・ウェストフィールド社と継続的に協議を続けていることを明らかにし、サンフランシスコ市警がモール周辺のパトロール体制を強化、常時2人の警官を配備して万全の対策を講じている点を強調しています。 サンフランシスコでは、アメリカの他の大都市に比較して凶悪犯罪率は低いのですが、窃盗や万引き、自動車泥棒なども多くなっているという犯罪事情があり、市長室で経済開発担当責任者は「現状には満足しておらず、引き続き改善が必要」と指摘して、経済と犯罪が密接に関係している事情への対応の重要性への認識を示しています。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(5/8/2023)