ロサンゼルス新市長の「一般教書演説」 “弱体化”しているLAPDの立て直し

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アメリカ101 第182回

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「ホームレスに加えて治安対策」ということでしょうか。就任以来4か月というロサンゼルス新市長カレン・バスが、初の総合的な施政方針演説で明らかにした「バス政権」の優先課題です。4月17日のダウンタウンの市議会での演説は、「一般教書演説」(State of the City Address)と名付けられたもので、7月1日から始まる2023-2024財政年度向けての市政歳出予算案を明らかにしました。

日本での報道では、「一般教書演説」(State of the Union Address)とは毎年、その時のホワイトハウスの主(あるじ)である大統領が、通常年明け2月当初に首都ワシントンの議会議事堂上下両院合同会議の席上での、その年の施政方針として明らかにする重要政策や予算措置の概要を示したスピーチを指しています。ここでの「State」とは「状態/状況」を意味し、「The Union」とは「アメリカ合衆国」のことで、具体的に「アメリカ合衆国の現況を詳らかにする演説」をいうわけです。

日本語で「一般」としているのは、連邦政府が年初に明らかにする一連の教書類が、「予算教書」のように特定の分野での政策を明らかにしているのに対して、連邦政府全体を対象にしたものであることからで、「一般」という訳語を新聞用語として使っています。

そして地方自治体レベルでも、このような連邦政府のやり方に倣って、その首長(この場合はロサンゼルス市長)が毎年恒例行事として明らかにする演説を「一般教書演説」と称しています。バス市長にとって初めての「一般教書演説」では、当然ながら、長年歴代市長が最優先課題として取り組んできたホームレス問題と治安対策が政策の柱となっています。ホームレス対策については、本誌昨年12月16日号で「新市長が『Inside Safe』を掲げ、動き出す」で取り上げたように、初年度に、「シェルターに収容されていない人々」(unsheltered)として分類されているホームレスの人々2万8000人のうち1万7000人を、市内のホテルやモーテルなどの既存施設に収容する方針です。

多数のホームレスの存在が象徴するように、ロサンゼルスでは住宅危機が常態化し、市全体の包括的な対策が必要とされているため、今回は総額13億ドルという、これまでにない規模の住宅関連予算が組まれており、このうち2億5000万ドルがホームレス対策費となっています。

そして住宅対策と並んで重要課題である治安対策にも、これまで通りの警察(LAPD)に依存した取り組みを見直して、市長直轄の直属部局としてコミュニティ-・オフィスを立ち上げ、従来からのコミュニティー活動家との連携の強化に加えて、ソーシャルワーカーや医療関係者を巻き込んだ方向を打ち出しています。

そして何よりも重点が置かれているのが、ここ10年ほどの間に“弱体化”しているLAPDの立て直しです。具体的には警察官の増員が焦点となっています。LAPDは、長年にわたり警官1万人レベルの維持が課題でした。それが2019年に僅かながら1万人を突破(1万8人)したあと、新型コロナウイルス感染拡大もあって再び減少に転じ、マイケル・ムーアLAPD本部長によると、今年年初現在では9103人と、2002年以来の低い水準に落ち込んでいるとのこと。現時点では9500人確保という低め
の目標を立て、リクルート活動を活発にしているものの、志願者が増えず、逆に今年中には600人減が見込まれています。LAPDでは危機感を強めていて、引き止めの説得を続けていますが、「きわめて難しい」(Extremely tall orde)(ロサンゼルス・タイムズ紙)とのことです。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(4/18/2023)

 

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