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エルヴィス・トキ / 土岐豊一
Toyokazu Toki
シンガー
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土岐豊一さんの原点は、お盆やお正月に、寝たきりだった祖父のそばで踊りながら唄を歌ったことにある。「じいさんを喜ばせたい、それだけでした」1967年青森出身。父は中学教師、母は栄養士という固い家で育った。自分では気付かなかったが異常に耳が良かったという。「なんでそんなにきれいな発音ができるんだ」と英語の先生に驚かれ、中学校では英語弁論大会に出場した。
大学受験に失敗し、仙台の予備校の寮に入るのだが、寮で出会った友達が聴いていたのがオールディーズ。そこからハマり始めた。3浪ののち英文科に入学。大学では音楽文化研究会というサークルを自ら作った。「何かに秀でていないと人は集まってこない」と考えた土岐さんはオールディーズを完璧に歌うことに夢中になる。輸入レコードには歌詞カードが付いていなかったため、自分の耳で歌詞を聴き取り、真似して歌った。1台のレコーダーで原曲を流し、もう1台のレコーダーで自分の歌を録音。それらを同時に流すと自分の出した音が違っているとすぐに分かる。完全に同じ音を発音できるようになるまで追求した。ライブ活動を行うなかで「歌は上手くて当たり前。人を楽しませられるか、盛り上げられるかが最も大事」だと思うようになった。
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卒業後は仙台でサラリーマンをしながらライブ活動を持続。ある時、ライブハウスの経営者から「お金をもらって歌えよ」と言われたことがきっかけでプロとしての一歩を踏み出した。30人集まれば一杯のライブハウスで1ステージ500円、1日3回のステージをこなした。「自分の歌でお金がもらえるんだ」と感動すると同時に「エルヴィスの時が最もお客が盛り上がる」ことに気付いた。「オリジナル曲を作ってやったこともありますけど誰も喜ばない。俺は人が喜ぶことをしたい」
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ファンはどんどん増えていく。JETプログラム(語学指導をおこなう外国青年事業)で仙台に来ていたアダム・ゼナーさんもファンの一人だった。アダムさんは言った。「トキはアメリカで歌うべきだ」と。10年やったのちサラリーマンを辞職。アダムさんは米国に戻った後もファンであり続け、米国での道筋を作ってくれた。
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エルヴィス・プレスリーの故郷テネシー州メンフィスで、毎年8月にエルヴィスパフォーマーの世界一を決める大会が行われる。そこに出場するためには世界各地の予選大会で優勝して出場権を勝ち取らねばならない。今年3月ミズーリ州で行われた「ブランソン・エルヴィス・フェスティバル」で、エルヴィス・トキこと土岐さんは見事優勝。まもなくやってくる8月の世界大会を見据えて静かに語ってくれた。「結果は欲しいけど望まず、自分を出せるようなステージにしたいです」。
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(4/18/2023)
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