全米で「0・05」への動き 飲酒運転事故への対応

.

.

アメリカ101 第178回

.

ある一つの数字を目にしただけで、それが何を意味するかが分かるものがあります。そして、その数字を忘れることなく、その数字の遵守が求められているというのが「0.08」で、それを「0.05」という、一段と厳しい数字に改定する動きがアメリカ全土で進んでいるというのが今週の話題です。

アメリカに住み、日常的にクルマを運転しているドライバーならば、運転免許証の筆記試験をパスするために知っていなければならないのが「0・08」ですが、ドライバーの皆さん、いかがでしょう。そう、この数字は飲酒運転と判定されるドライバーの血液中のアルコール濃度(BAC=blood alcohol)のことで、その濃度が0・08%をオーバーすると酒気帯び運転違反となり、現行犯逮捕となり、翌日まで拘置所に拘束、免停という容赦ない流れです。

アメリカでは酒気帯び運転の略語としてはDUI(driving under the influence)あるいはDWI(driving while intoxicated)という言い方となっており、現時点ではBACはユタ州で2018年以来0.05となっている以外は、カリフォルニア州を含めて49州で0.08です。

アメリカ全土で2020年以来酒気帯び運転に絡む事故死が増加を続けており、NHTSA(National Highway Traffic Safty Administration=全米幹線道路交通安全局)によると、同年には少なくとも一人の酒気帯びドライバーが関与した事故による死者が1万1654人と、前年比で14・3%増を記録しています。そして、これらの事故死ドライバーの84%のBACが0.08以上だったのに比べ、BACが0.05から0.07の間だった事故死ドライバーが約9.3%にとどまったことから、事故死の主要な原因である飲酒運転を防止するために、BACをユタ州並みの0.05に引き下げる動きが全米各地で広がっており、6州にほかニューヨーク市もエリック・アダムズ市長を先頭に、推進の動きが加速しています。

ハワイ州では州議会上院でBACを0.05に引き下げる法案を3年連続で可決しました。過去2年は下院では、飲食店組織からの抵抗が強く否決となっていますが、追い風が吹いているとの見方もあり、注目されています。またワシントン州では、州議会上院で引き下げ法案に関する聴聞会が開催され、ジェイ・インスリー州知事も法案賛同を表明するなど、新たな動きがあります。さらにニューヨーク市では、推進支持組織がユタ州での飲酒運転事故死の減少を強調している一方で、レストラン・オーナー側が巻き返しに出ており、同市の観光事業にマイナスとの観点から、州都オルバニーの州議会での審議をめぐり、反対のロビー活動を展開するなど、全米各地で飲酒運転事故への対応をめぐる対立が深まっています。

.

.

アメリカ101をもっと読む

ホームに戻る

.


著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(3/21/2023)

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。