カリフォルニアで続く「mass shooting 」

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アメリカ101 第170回

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年明け早々からカリフォルニア州で「mass shooting 」が相次いで発生しています。「多数(mass)の犠牲者が出た大きな銃撃事件」というわけです。アメリカでは、人間を相手に銃が乱射され、死傷者が1人や2人ではなく、多数(mass)に上るという「大量殺人事件」を意味するものとして、単なる殺人事件ではない別のカテゴリーとして、統計上は区別されています。一件の殺人事件での死者が多いというアメリカでの凶悪犯罪の実情を示すものでしょう。

今年は、すでにカリフォルニアでの3件を含み10数件の「mass shooting」が報告されています。アメリカでの「mass」という単語には、単なる1,2ではなく、「不特定な多数」という意味合いが強く、「数多くの死傷者が出た」というケースにのみ使用するのですが、その具体的な定義となると、当初の殺人事件が主として報道機関を通じて伝えられるために、厳密な統一した基準はありません。例えばワシントン・ポスト紙では、「公共の場でのひとつの乱射事件で、銃撃で4人以上が死亡ないしは負傷」したケースを「mass shooting」と扱っているほか、ABCニュースは「同じ場所で銃撃により、ほぼ同時に4人以上が死亡ないし負傷」した場合が該当するとしています。いずれも犯人が凶行後に自殺した場合でも、「死者/負傷者」には含めていません。

このような基準で今年になってからの「mass shooting」に該当するのは、いずれもカリフォルニア州で発生した「大量殺人事件」です。ひとつは、犠牲者が11人というモントレーパークのダンスクラブで1月21日夜、中国の春節(旧正月)を祝うイベントが開催されていた際に、アジア系の男が乱入、銃を乱射したことで11人が死亡、9人が負傷した事件。そして、その2日後には、サンフランシスコ郊外のハーフムーンベイの2か所の農場で銃撃事件があり7人が死亡、1人が負傷しました。さらに同じ日にオークランドで、ミュージックビデオのロケ撮影現場近くのガソリンスタンドで乱射事件があり、8人が撃たれて、1人が死亡しています。

そして死者こそ出なかったものの、1月中旬までで、4人以上の負傷者を出した「mass shooting」がアメリカ全土で50件ほど報告されています。このうち7件はいずれも元日にかけての大晦日のことで、例えば、フロリダ州オカラでは元日を祝う100人ほどの集まりで銃撃で2人が死亡、4人が負傷しています。またオハイオ州のジョン・グレン・コロンバス国際空港近くのストリップクラブで、口論で銃撃となり、1人が死亡、4人が負傷するという事件がありました。

さまざまな新聞あるいは雑誌が集計した「mass shooting」に関する報道では、調査方法の違いから、正確な国際的な比較は困難とされていますが、発生件数ではアメリカが件数では断然トップとのことで、その背景には、個人の銃器保有への規制が緩やかであり、国内で比較的容易に銃器を手にするのが可能である「ガン社会」という“国情”があるとされています。「mass shooting」を防止するには、当然のことながら銃規制の強化が必須であるわけですが、その前に立ちはだかるのは、合衆国憲法修正第2条で個人の銃保持が認めてられている現状です。繰り返される「mass shooting」にもかかわらず、厳しい銃規制が“夢物語”であるアメリカは、次の「mass shooting」が間違いなく到来するという宿命を負っていくことは間違いありません。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(1/24/2023)

 

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