ムース捜索初日 ジャクソンレイクでカヌーに揺られて

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Vol.36 ▶︎山あり、川あり、湖あり、親子熊も姿を現し、まさに地上の楽園だ~

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一昨日、グランドティトンに到着後、ジャクソンレイク沿いのキャンプ場にベースキャンプを設けた。ベースキャンプと言っても、持参した蚊よけネットがついたタープを備え付けのピクニックテーブルを覆う様に設置。コールマンのランタンを吊し、二人分のキャンプチェアーをファイヤーピットの横において完了だ。

今回はキッチン、テーブル、トイレ、シャワー完備の快適なキャンピングカーがあるので、いつものようにテントを張ったり、コンロの準備をする必要はない。キャンピングカーが“動くベースキャンプ”だ。キャンプサイトをセッティングした後は、湖からの涼しい風を感じながら夕食とワインを楽しんだ。午後九時を回っても周囲は明るく、ランタンを灯す必要はない。 翌朝、空は雨雲に覆われていた。彼方には、グランドティトン山から続くモラン山の頂。その手前には朝靄のジャクソンレイクが広がる。時間は午前7時を少し回ったあたりだろう。天気予報が当たり小雨模様だ。半そでシャツの上にウインドブレーカーを羽織り、キャンピングカーを後にしてから30分程度。湖の畔は小石に覆われており走り難い。コースを少し変えてみよう。

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雨上がりのジェニーレイクでカヌーを楽しむ。湖面は波一つない

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熊対策用のペッパースプレーは右手で直ぐに掴めるように、ランニングベストの左胸のポケットに入れてある。周りに人影はない。林の中で物音がする。ドキッとし、音の方向に目を向けると、シカが逃げるでもなく、悠々と草を食んでいる。標高2,000ⅿを超える高地の酸素は薄く、少し息苦しいが、霧雨が心地よく体を冷やしてくれている。 天気予報では、今日は天候が不安定だが、明日以降は晴れが続く。雨が止めば朝晩ムースを探すこととなる。キャンピングカー内で朝食を済ませ、天気が回復するまでビジターセンターへ行くことにした。 午後の強い日差しがジェニーレイクの湖底の小石を照らし出している。水は驚くほど澄んでおり、名も知らぬ小魚の群れが行き交うのが見える。雨は思いのほか早く止んだ。北の空に怪しい雲が見えるが、暫くは大丈夫だろう。二人乗りのカヌーの前には、グランドティトン峰と鏡のようにそれを映す湖面が佇んでいる。静まり返った針葉樹の森からは鳥の鳴き声が聞こえる。先ほど、湖畔で子熊二頭を連れたママ・ベアーに遭遇した。三頭のブラックベアーを追うように湖畔に沿ってカヌーを漕ぎ続けたが、それ以降、姿を現を見せることはなかった。森の奥深くに入ってしまったのだろう。岸から離れるように船首を北に向けた。

ワイオミング北部を源流とするスネークリバー。生まれてすぐジャクソン・レイクに流れ込む。その清流は暫し湖を漂った後、南東部のダムの堰を越え、蛇のようにくねりながら南に向かう。その後、西方向に流れを変え、アイダホ州、オレゴン州を横切って太平洋で大海の一部となる。 ムースが頻繁に出没すると言われるオックスボウ・ベンドは、ダムのすぐ下流に位置しており、堰で水量がコントロールされているため、殆ど流れがない。スネークリバーは、ここで大きく進行方向を変える。水面にはくっきりとした輪郭のモラン峰が写る。静かな川の畔には植物が生い茂っている。ムースはこれらの水辺の植物のみではなく、水底にある苔のような植物も食べる。あの巨体で数メートルの深さまで潜水することもあるそうだ。

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オックスボウ・ベンド。水面にはモラン山の姿が映る

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夕闇迫るオックスボウ・ベンド。周囲には大型の望遠鏡や50センチもあるような望遠レンズを付けたカメラを抱える人々。皆のお目当ては、ただ一つだ。全身にまといつく蚊を追い払いながら、今か今かとムースの出現を待つ。1時間。2時間。虫よけスプレーを施していないティーシャツの上に蚊が群がる。薄闇が水辺を覆い始めた。残念ながら、今日の収穫は数えきれないほどの虫刺されだけになりそうだ。

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(11/2/2022)


 

Nick D (ニックディー)

コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈け回る毎日。「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。

http://nick-d.blog.jp

 


 

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