11月8日ロサンゼルス市長選挙 「ブルーシティ」を制するのは、バスorカルーソ?

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アメリカ101 第155回

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「金権選挙」といえば、その通りなのでしょうが、生粋のビジネスマンとしての成功をセールスポイントに、対立候補の10倍という選挙資金を投入、リベラル政治家として知名度の高い現職のベテラン連邦下院議員である黒人女性候補カレン・バス(69)を圧倒して、アメリカでの有数「ブルーシティ」(民主党の地盤)であるロサンゼルス市長選挙(11月8日)で、「Clean up L.A.」をスローガンに「法と秩序」を前面に打ち出して当選を期するのがリック・カルーソ(63)です。

今年の中間選挙と同時に実施される市長選は、2期8年を務めた現職のエリック・ガルセッティ市長が「三選禁止」で出馬できないことから「現職不在」とあって、当初は30人ほどが立候補の意思を表明したのですが、資格審査でその多くが脱落。今年6月の予備選挙では候補者12人が争い、有効票の過半数を獲得すれば当選というプロセスだったものの、該当者はなく、結局得票数上位だったバス(43・11%)とカルーソ(35・99%)のふたりが決選投票に進出、いずれかが11月の本選挙を経てアメリカ第二の都市の“顔”となります。

バスはロサンゼルス生まれで、ベニスやフェアファックスで育ち、サンディエゴ州立大学や南カリフォルニア大学(USC)で学んだあと、コミュニティ活動家として活躍、ダウンタウン一帯の選挙区を地盤として、州議会議員、同議長などを経て、2010年に連邦下院議員に初当選、黒人議員団議長などを経験したリベラル派の有力議員です。一方のカルーソもロサンゼルス生まれで、父親や大手レンタカー会社創業者という裕福な家庭で育ちで、USCのあと、ペッパーダイン大学ロースクールで法務博士号を取得、有力法律事務所の不動産財務部門を経て独立、不動産会社を立ち上げ、斬新なコンセプトのショッピングモール「ザ・グローブ」(The Grove)の建設などで成功を収め、母校USCの理事会理事長yはロサンゼルス市警察委員会委員長などを歴任、ロサンゼルスのパワーエリートとして活躍してきました。

そのような対照的なバックグラウンドの両候補の選挙戦ですが、それぞれの強みを発揮した選挙戦を展開しています。バスは政治家として知名度が高いことを武器に、労組や市民団体など、長年の議員活動で培った地盤を活かしながら、「ブルーシティ」としてのリベラルなロサンゼルスでの著名人である映画監督スティーブン・スピルバーグや、情報技術産業界のパイオニアのひとりであるシェリル・サンドバーグ元フェイスブックCOO(最高執行責任者)らの支援を受けて優位な戦いを進めています。

これに対するカルーソは、潤沢な選挙資金を使って、これまで投票所に足を運んだことのない無関心層の有権者の掘り起こしに重点を置いた戦術を採用しています。バス陣営の一定の固定票に対抗するには、“どぶ板作戦”(field effort/canvassing program)ということで、今年の夏にはテレビ広告といった派手なキャンペーンを限定的とする一方で、多数の運動員を動員して、選挙に無関心な有権者の多かったラティーノやアジア系、そして地域的にはサンフェルナンドバレーを重点的に地道な選挙戦を進めていたようです。カルーソは今年1月に選挙戦を立ち上げて以来、主として自己資金で総額600万ドルの選挙費用を使ったとみられており、これはアメリカでの地方選挙での選挙資金としては過去最高水準とみられています。

ロサンゼルス・タイムズ紙がカリフォルニア大学バークリー校行政研究所と共同で9月下旬に実施した最新の世論調査では、8月以降カルーソ陣営はバス候補との差を大幅に縮めており、登録有権者の間では、8月には12ポイント差だったものが、34%対31%と3ポイント差になっています。しかし「投票所に足を運ぶ」という有権者だけをみると、46%対31%と15ポイント差に拡大しており、バス陣営の支持基盤が固いことを示しています。カルーソ陣営は潤沢な資金がギャップを埋める方針のようですが、“素人政治家”の悲しさで、バス側の固い壁を突き破るのは至難とういのが大方の見方です。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(10/4/2022)

 

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