前代未聞 大統領経験者の邸宅強制捜索 トランプ氏の機密文書隠匿問題

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アメリカ101 第147回

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 一般に馴染みがない「公文書館」というお役所が、アメリカの将来を左右する“キープレーヤー”として脚光を浴びています。  

 正式名称は「国立公文書記録管理局」(National Archive and Records Administration)、通称はNational Archive(ナショナル・アーカイブ)で、アメリカという国家に関連したあらゆる公式文書/ドキュメントを収集している地味な政府機関で、日本関係では、194592日の東京湾内での軍艦ミズーリ号上で調印された降伏文書も保存しています。 

 焦点となっているのは、ドナルド・トランプ大統領時代の公式文書の行方をめぐって、トランプが機密文書を含むこれらドキュメントを隠匿しているとの疑惑で、週明け88日朝には、FBI(連邦捜査局)がトランプが所有するマイアミ州パームビーチの高級リゾート邸宅「マールアラーゴ」の家宅捜索に乗り出しました。大統領経験者の邸宅強制捜索は前代未聞で、大ニュースとなっています。 

 それというのも、歴代大統領がホワイトハウスの主(あるじ)としてアメリカの政治を左右した任期中のあらゆる公式文書は「大統領記録法」(Presidential Records Act of 1978)によって永久保存し、ナショナル・アーカイブに収納することになっているのですが、これに違反して意図的に隠匿したことが明らかになった場合には、その人物は永久に公職に就くことが禁止されているからです。もしトランプが勝手に、その種のドキュメントを退任後に持ち出して、隠しているとすれば、トランプは2024年の次期大統領選挙はおろか、いかなる公職にも失格者となり、政治生命を絶たれる結果となります。 

 この家宅捜索は多数のFBI係員が加わった大規模なものであったにもかかわらずメディアにとっては寝耳の水で、家宅捜索が行われていることは、トランプ自身が声明を発表して初めて公になりました。そしてFBI、および監督官庁である司法省も、捜索については一切コメントしていません。 

 トランプはこの声明で、「FBIが家宅捜索を行っている」「検察による不正行為で、司法制度を(政治的)武器して使うものだ」と非難、「金庫さえもこじ開けた!」と感嘆符付きで、この抜き打ち調査が不適切だと指摘しました。さらに共和党幹部も「権力の乱用だ」(ロンナ・マクダニエル党全国委委員長)など党派的な意図があるとしています。 

 トランプが機密文書を含む大量の文書を勝手に持ち出している疑惑は、トランプ退陣直後から指摘されており、今年2月に公文書館側は議会関係委員会に対して、トランプが機密文書をマールアラーゴに運び込んだとして司法省と連絡をとっている旨を通告しています。機密文書隠匿問題が注視される所以です。 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(8/9/2022)

 

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