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Vol.16 ▶︎西陽を浴びるブライスポイント
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眼下には西に傾いた太陽に彩られ、美しさが際立つフーデゥーと呼ばれる石柱の谷が広がっている。午後の陽を浴びるフーデゥーは、草原で命を謳歌するプレイリードッグの如く、生き生きと輝いて見える。 夕暮れを待つブライスキャニオン。オレンジ色に輝く谷は、地平へと向かう太陽の傾きに合わせ、秒単位でその表情を変える。 愛用のニコンの双眼鏡を覗く。レンズ越しに見えるフーデゥーの谷は、遠目に見るそれとは全く異なる。丸く切り取られたエリアを僅かに動かし、フォーカスを合わす。眺めるスポットを変えるたびに、目の前に迫るフーデゥーが古の物語を語り掛けてくるようだ。
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ブライスキャニオンの奇岩
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壮大なグランドキャニオンを創り上げたコロラド川。堆積岩を削り芸術的とも言えるザイオンキャニオンを形作ったバージン川。「キャニオン」、即ち渓谷と呼ばれるところには、それを作り出した河が存在する。多くは岩を浸食する激しい流れを有する。とろがブライスキャニオンの底には、大きな河はない。あるのは、雨期の終りと共に干上がってしまう程の小さな川だ。 ブライスキャニオンの奇岩の群れは、激流によって作られたものではない。高地に降った雨や雪がクラロン層と呼ばれる、この地域特有の脆い岩でできた岩盤の上を流れる。水流は幾つもの溝を作り、やがて深さを増しヒダ状になる。
繰り返し起こる浸食で、ヒダは薄い壁のような形状になる。壁の割れ目に水が入り込む。標高2,500mを超える高地に広がるブライスの谷、冬場の冷え込みは厳しい。割れ目に入り込んだ雨水は凍り、その膨張で壁の一部が崩壊する。フーデゥーと呼ばれる石柱の誕生だ。 水、氷、そして重力が長い時を掛けて作った摩訶不思議な谷。形成されたのは5千万~6千万年ほど前と言われている。 季節を変えて幾度となく訪れているブライスの谷だが、秋は今回が初めてだ。明日は家内と二人で谷底へ降りる。幸いにも好天に恵まれそうだ。
急斜面を蛇行するトレイルは、朝のピンと張りつめた心地よい空気で満ちている。軽快な足取りで向かった谷底。そこには、おとぎ話の世界が広がっていた。目の前に色とりどりのお菓子の家が姿を現しても、違和感はないだろう。 ろうそくの炎を思わせるような、オレンジ色に輝くフーデゥー。背後には、どこまでも澄んだ秋の青い空。松の緑がそこに絶妙なアクセントを加える。ところ狭しと天に向かって伸びる、先の尖ったレッドロックの石柱は、森に聳え立つ針葉樹林の様だ。高いものは45mにもなるという。まさに「フーデゥーの森」と言う表現がふさわしい。 訪れる者を魅了し想像力を刺激する、不思議な魅力を持つ美しい森。かつて、この地に住んでいた民の間に、このフーデゥーの森にまつわる言い伝えがあったという。
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想像力豊かなアーティストの目には、こんな風景が見えている
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遡る事、西洋人がこの地に来る何百年も前。パイウテ(Paiute)と呼ばれるインディアンがこの地に住んでいた。彼らの間で語り継がれていたのが、フーデゥーと化した人々の伝説だ。 その昔、この谷に住んでいた人々は、この地の主と言わんばかりに、我が物顔で振舞い、自然の恵みを独占していた。ここで登場するのが、ネイティブ・インディアンに伝わる伝説ではお馴染みのコヨーテだ。 パイウテの文化ではオオカミは山の神のような存在。コヨーテはいたずら好きな弟分、いつも決まって問題を起こす。丁度、日本の昔話でいいう狐の様な存在だ。姿かたちもよく似ている。 自然の恵みを大事にせず、好き放題をする人間たちを見かねたコヨーテが、宴と偽り人々を一堂に集め、呪文を唱えて彼らを石に代えてしまった。フーデゥーと呼ばれるこの谷にある石柱群が、その我儘な人々のなりの果てと言う訳だ。
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(6/14/2022)
Nick D (ニックディー)
コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈け回る毎日。「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。