リベラル政治家の“鮮度”に試練 6月7日投票日のLA市長選

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アメリカ101 第137回

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今後4年間のロサンゼルス市政を左右する市長選挙(予備選)が6月7日(火)に迫ってきました。ロサンゼルス・ダウンタウン一帯でのコミュニティー活動を皮切りに、カリフォルニア州議会下院議員を経て連邦下院議員となった黒人女性政治家のカレン・バスと、不動産事業で億万長者となった白人男性の実業家リック・カルーソの一騎打ちとみられていますが、いずれも民主党候補ならが、まったく対照的なバックグランドの候補者の争いであり、カリフォルニア州でもリベラル色の濃いロサンゼルスでの有権者の政治動向を占うだけでなく、今年11月の全米での中間選挙の行方をも示唆する重要な選挙として、通常の市長選以上の注目を集めています。そして、現職のエリック・ガルセッティ市長の去就も見逃せません。

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ガルセッティ市長は2013年に当選、二期目にありますが、3選禁止規定で今年いっぱいで任期切れとなります。初のユダヤ系としては初めての市長で、父親のギル・ガルセッティは公選ポストであるロサンゼルス郡地方検事で、親子二代の政治家。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)付属小学校から名門私立中高一貫校プレップ・スクールであるハーバード・ウェストレーク校を経てコロンビア大学に進み、ローズ奨学金受領でイギリスのオックスフォード大学に留学。さらに世界最高の経済学カレッジであるロンドン・スクール・エコノミクス(LSE)でPhD(博士号)を取得したあと、USC(南カリフォルニア大学)やオクシデンタル・カレッジで教鞭をとり、2000年には政治家に転身、ロサンゼルス市議会議員に当選、2013年に市長選勝利で第42代市長に就任するという典型的なエリート・コースを歩んできました。

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そんなことから2017年当時から、2020年の大統領選挙出馬の憶測が浮上したものの、結局、早い段階からジョー・バイデン前副大統領支持を表明して、バイデンとの密接な関係を築きました。そんな経緯で、バイデン政権下で最優先課題となった対中政策の一環での「開かれたインド太平洋」戦略の要(かなめ)であるインドとの関係重視の観点から、バイデンは昨年7月に、任期切れを控えるガルセッティを駐インド大使に指名しました。しかし、その後、側近のセクハラ疑惑解明に消極的だったとの見方から、連邦議会上院での事実調査などで指名人事が停滞したまま現在に至っています。10カ月近く棚ざらし状態であることから、駐印大使人事の見直しを求める声も出ています。

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今回のコラムの一方の話題である市長選については今年2月18日号(第122回)で触れたように、「現職不在」の選挙とあって、当初は30人近くが立候補したものの、その後候補者の資格審査で、最終的には12人が候補者として確定、有権者の審判を受けます。

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バスとカルーソに一騎打ちという予想通りの展開となっています。バスはダウンタウン一帯が選挙区で、ここでは絶大な支持を集めており、また下院では黒人議員団会長に選出されるなど、リベラルな“全国区政治家”として地歩を固めていて、地方政治家への転身は意外との受け止め方もあったものの、手堅い選挙を進めてきました。

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しかしカルーソが選挙戦が本格化するのに伴い、約3750万ドルという巨額な自己選挙資金を投じて当選を期しているのに対して、バス陣営の選挙資金はその10分の1程度にとどまり、この資金力の差がジワジワと効果を発揮しているとの見方も出ています。

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6月7日の投票日に過半数の得票率を確保した候補が当選となりますが、過半数に達する候補がいない場合には、上位2候補の決戦投票が11月8日の中間選挙と同時に実施となります。カルーソが保守票を固め、バスの支持層をどれだけ切り崩すかが焦点です

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(5/31/2022)

 

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