19世紀まで遡る ドジャースVSジャイアンツのライバル関係

アメリカ101 第106回

 

  アメリカでは毎年10月になるとFall Classicのシーズンが到来します。アメリカの国技であるMLB(メジャーリーグ・ベースボール)に加入する30球団の頂点に立つ世界チャンピオン(優勝チーム)を決める一連のポストシーズン試合を指す言葉で、アメリカに俳句に相当する文学ジャンルがあるとすれば、さしずめ、その“季語”となるような表現です。そして今年も、そのFall Classicで主役を演じているのが、MLBきっての強豪チームで、ワールドシリーズ2連覇を狙うロサンゼルス・ドジャースです。 

 ナショナル・リーグのワイルドカードに勝利したあと、ナ・リーグ西地区シリーズ(NLDS)で「究極のライバル」であるサンフランシスコ・ジャイアンツと対戦、3勝2敗という歴史に残る激戦で勝ち残り、ワールドシリーズ進出をかけて、ナ・リーグ優勝決定シリーズ(NLCS)でアトランタ・ブレーブスと対戦中です。敵地での初戦、第2戦に連敗、19日から地元ロサンゼルスでの3連戦に臨みますが、このコラム掲載号が読者のお手元に届くころには、その帰趨が明らかになっているのでしょうか。 

 だがドジャースにとっては、今シーズンの最終結果がどうあれ、「3世紀にまたがる」宿敵ジャイアンツとの因縁関係で、ポストシーズンでの初めての対戦で勝ち越し、NLCSに進出したのは、チーム自体、そしてファンにとって溜飲が下がるもので、今シーズンのハイライトではないでしょうか。 

 ドジャースとジャイアンツのライバル関係は、19世紀末のニューヨークでのプロ野球界まで遡ります。当時はプロ野球の創成期で、ドジャースは庶民のコミュニティーであるブルックリン、ジャイアンツはニューヨークの中心で、上流の意識が強いマンハッタンがそれぞれ本拠地で、ファンの気質も、その雰囲気を反映したものだったようです。そして1890年に、そのブルックリン・ドジャースがナ・リーグに加入して、同リーグのジャイアンツと対戦する機会が増えたことで、ライバル意識が高まることになりました。ニューヨーク都市圏内に本拠地を有することから Crosstown Rivalry(市内横断ライバル)とも呼ばれていました。 

 その後957年シーズン・オフに、当時ドジャースの辣腕オーナーとして影響力を発揮していたウォルター・オマリーが、列車による長距離にわたる選手移動という交通上の限界もあって、ミシシッピ川以西にMLBチームが不在だった西部諸州でのビジネスチャンスとして、ドジャース本拠地のロサンゼルス移転を発表。同時にミネソタ州へ移ることを検討していたジャイアンツを説得、サンフランシスコへの本拠地移転を取り付けました。その結果サンフランシスコ・シールズなどMLB傘下のマイナーリーグ球団しか存在していなかった西海岸に、初めてMLB2チームが並立する、アメリカのプロ球界の大変革が実現しました。さらにサンディエゴやオークランド、アナハイムなどに相次いでMLBチームが本拠地を置いたことで、現在は西海岸は伝統的な東部のMLBに匹敵する球界の重要な拠点です。 

 ドジャースとジャイアンツは、Crosstownライバルから、650㎞もの距離のあるCrossstateライバルとなったものの、ライバル意識は野球ファンだけにとどまらず、一般住民の間でも、カリフォルニア州の北半分を象徴するサンフランシスコと南のロサンゼルスの違いを意識する“郷土愛”の在り方にも反映しているとの見方もあります。「文化」vs.「富」、「洗練された趣味」vs.「スタイル重視」、「政治力」vs.「社会的影響力」といった対比で、もちろん前項はジャイアンツ派、後者はドジャース派というわけですが、いかがでしょう。スポーツ界での最大のライバル関係にある両チームの存在感は多方面に及んでいるようです。 

 

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(10/22/2021)

 

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