「おふくろの味広めたい」(7/10/2019)

料理講師/フードライター/日本食プロデューサー

酒井 園子 Sonoko Sakai

 ニューヨークで生まれ、東京、サンフランシスコ、メキシコで育ち、再び日本を経てロサンゼルスへ移り、以降は米国で暮らす酒井園子さんは、日本の「おふくろの味」を広めるためにフードライター、料理講師として活動する。「いろいろな場所で過ごしてきたけれど、やはり私の原点は日本」と話す。

 

祖母、母はともに主婦、5人兄弟の大家族という環境もあり、めったに外食のない家庭に育ったためか、子どものころから「家で食べるものが一番おいしい」と思っていた。

〝食〟への興味も大きく、UCLAの大学院生だった30年前には、先生のすすめで日本の家庭料理についての本も出版した。しかし卒業後は映画の道を選択。配給会社でバイヤーとして、後にはプロデューサーとしてキャリアを積み重ねていた。

ところが2008年、リーマンショックの影響を受け、プロデュースした映画の興行が失敗。ショックは大きかった。

「映画は文化事業。自分の中では一つの文化を広めるためだった」と打ち込んでいた仕事に区切りをつける決心をしたのは、ちょうど10年前。

気持ちを切り替え、身近でできる仕事は何かと考えたとき「日本の家庭料理は海外ではあまりきちんとした形で紹介されていない」と気がついた。

「日本料理はエッセンシャル。どんな職人であろうと、出したいのは〝おふくろの味〟」。ビジネスのためではなく家族のために作る、日本が築いた家庭料理の味を広めたいと考えた。そして日本食のクラスを開講するなど地道な活動を開始した。

 

酒井さんが特に興味を持ったのは蕎麦。米国では穀物として蕎麦が作られ、その蕎麦が日本に輸出されている。この現実に疑問を抱いたことがきっかけで、日本に行き蕎麦職人に弟子入りした。酒井さんの手打ちそばのクラスでは、ただそばを打つだけではなく出汁など日本料理の基本について教える。

今では蕎麦のスペシャリストとしてメディアにも登場するようになったが、「私はクラスをやって家庭料理を広めているだけ」と笑う。

自分にとってのセラピーである粉を打つことが、ほかの人にとっても癒やしになるのがうれしい。

食文化は「日本人が一番プライドを持って外に出せるもの」だが、海外ではまだまだ誤解や先入観を持つ人が多い。

欧米では〝日本食=スシ〟と考えられがちだが、日常的な家庭料理はまったく別物で、その存在は知られていないのが現状。

「華やかな映画の世界に比べたら今の仕事は地味。でも残る人生は日本の食文化のことだけやっていく。それほど日本食は奥が深いから」。

 

映画で叶わなかった日本文化の伝達に、酒井さんは〝食〟という違う形で挑戦している。

華やかな映画業界を離れ、日本の家庭料理を広める活動をする酒井園子さん。LAタイムズ紙で10年以上にわたり日本の食文化を伝えるコラムを寄稿した。「資源があるようで土地が狭い日本では、知恵を働かせて海を利用し食文化を発達させてきた。すごい国だと思う」。Webサイトはsonokosakai.com (Photo by Emil Ravelo)

「日本でおばあちゃんがごちそうしてくれた手作り蕎麦に感動して、自分にも人をよろこばせることができるんじゃないかと思った」と、職人に教わった手打ちそばは、酒井さんのクラスの中でも一番人気だという (Photo by Kristen West)


今年11月に30年ぶりに出版する『Japanese home cooking. Simple Meals, Authentic Flavors』は2年かけてまとめたレシピやコラムなどが満載。日本の家庭料理を紹介するこの本はAmazon.comにてすでに予約を受付中

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