アメリカ101 第97回
新聞の見出し風に表現すれば、「多様化が進むアメリカの人口構成、白人が初めて減少」 ということでしょうか。8月12日に発表となった2020年国勢調査データ詳報です。昨年4月1日を期して実施された10年に一度の国家的行事である国勢調査については、このコラムでも数回触れましたが、この10年間での人口動態でアメリカの変容ぶりが明らかになり、さまざまな人種、民族が混在する“人種のるつぼアメリカ”、“移民国家アメリカ”の姿が色濃く反映されたものとなっています。
多様化を象徴するのが、人種およびエスニシティ(社会的価値観、言語、信仰、慣習などを共有する集団)を背景とした国民の意識変化です。前回2010年調査では、人種を問う設問で「複数/多民族」(multiracial)と答えが900万人だったものが、今回は実に3380万人と276%にも急増しました。前回は、多人種/エスニシティが混じっていたとしても、白人あるいは黒人、ラティーノ、アジア系といった単一カテゴリ―を選択していた人の間で、今回はいくぶんでも混じっていれば「多民族」と申告する人が増えたためとみられています。多様性を受け入れる意識の高まりが背景にあるとみられます。国勢局の「多様性指数算定」によると、アメリカ国内の一定地域でアットランダムに2人を選んだら、別々の人種/エスニック・グループである可能性が前回に比べて6・2ポイント増の61・1%だったこと。ちなみに最も多様性指数が高いのはハワイ州で76%です。
いわゆる“純粋な”「白人」に分類される「非ヒスパニック系白人」と回答したのは1億9170万人で、前回調査から5100万人(2・6%)減少でした。白人人口が減ったのは国勢調査(初回は1790年)では初めてです。また全人口に占める白人の比率は、前回の57・8%から、初めて60%を下回る57・8%となりました。さらに「白人国家アメリカ」色が薄れる傾向を示すのは、現時点での18歳以下の人口比率が、非白人(有色)52・7%と過半数を占めている点で、2045年ごろには白人が全人口の半分以下となる見通しです。国勢局の専門家は、白人人口の減少を加速化させているのは、麻薬性鎮痛薬オピオイド乱用による薬物中毒の増加や、ミレニアル世代の間での新生児出産率が21世紀初頭の大不況(Great Recession)で予想を下回ったためだと指摘しています。
今年4月の国勢調査速報では、2020年4月1日現在のアメリカの総人口は3億3144万9281人、前回2010年比では7・4%増でしたが、これは1930年代の大恐慌(Great Depression)以来の低い人口増加率です。そんな中で、人口増が目立ったのは西部および南部の諸州で、移民増や他州からの移入増が要因でした。そして着実に人口増を記録しているのはヒスパニックで、人口比率は過去30年間で2倍増の18・7%(6210万人)に達しています。またアジア系の伸びも顕著で、その人口比率は1990年に3%だったものが、現在では6・1%と倍増。一方黒人は12・1%と横ばいです。
国勢調査による新たな人口統計で直ちに大きな影響を受けるのは、その増減による選挙基盤の変動です。議席定数435の連邦下院では、テキサス州の2議席と、1議席増の5州の計6州が議席増、一方1850年の州昇格以来初めて1議席を失うカリフォルニア州など7州が議席減です。それに伴い選挙区の区割り改定が進められますが、州政治レベルでは優位に立つ共和党が、自党に有利な区割り断行で攻勢を強めています。2022年の中間選挙で全員改選となる下院選では、同党が現在の8議席差の少数党から、ジョー・バイデン政権に大きな痛手となる多数党への躍進が視野に入っています。
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(8/20/2021)