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第十一回
「一旦箸置きに戻して、一呼吸」
正しい割り箸の所作についてお話ししましょう
日本人と箸のおつきあいは1300年以上。日本最古の歴史書「古事記」にも箸が登場します。それほど長いおつきあいなのですが、お箸の作法や所作に自信がある日本人は少ないようです。この度は箸の作法のうち、割り箸の割り方について確認して参りましょう。
今回のコラムでは、右利きの方の所作について、お話しさせていただきます。
和食では、箸は箸先を左にし、横向きに置きます。「いただきます」と挨拶をした後、割箸の真ん中を上から右手でとり、持ち上げましたらすぐに左手で右手の真下を支え、すっと引き寄せ低い位置に持ちます。そして、割り箸を右手で向こう側から手前に起こします。右手が箸の上側、左手が箸の下側にあり、上下の箸を指でつまんで、扇を開くように割ります。動作を体に近いところで小さく行うのは日本の礼儀作法の基本です。少しでも小さく振る舞えば、より広いスペースを周りの方に使っていただくことができます。また、小さな動作は塵や穢れを舞い上げず、例え舞い上がったとしても広がる範囲は狭く、同席者の食事にまで降りかかることはないという配慮も含まれています。
割り箸は割りましたら一旦箸置きに戻します。一呼吸置き、心を鎮めてから改めて箸をとるようにします。食事とは、大切な命をいただくこと。流れのままに食事をするのではなく、一旦箸を置き、心を整えてから、有り難くいただくようにします。
割箸を縦向きに持ち、左右に開くように割ってはいけません。なぜなら、割った時の勢いでお隣りの方に肘が当たったり、当たらないまでも突然目の前に肘や箸があらわれて驚かせてしまうかもしれないためです。
どなたも気づかないような小さな心遣いですが、周りを想う所作は自ずと優美さを纏うことと思います。
ちなみに、割り箸の袋は「清浄結界」のため。白い紙で箸を包むことによって、外界の穢れから箸先を守り、より清らかなものをお客様にお使いいただこうとする「おもてなし」のひとつです。
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(2/21/2025)
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筆者・森 日和
禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com