映画からみる「オリンピック」。 五輪史上最悪の惨事を撮った“あの”映画とは

アメリカ101 第95回

 

 新型コロナウイルス禍での「東京2020オリンピック競技大会」は、8月8日(日)の閉会式へ向け終盤に差し掛かっています。当初の金メダル・ダッシュが勢いが衰えたとはいえ、日本選手の活躍が続いており、メダル獲得数では過去最高で、主催国の面目を保った感があります。しかし筆者のような映画ファンにとって、ポスト・オリンピックの最大の関心事となるのは、その象徴的な「レガシー」(遺産)となる河瀬直美監督による「公式記録映画」です。 

 1964年前回の東京五輪は、第二次世界大戦であらゆる面で壊滅的な打撃を受けた日本が、復興を成し遂げて再び国際舞台での存在感を示した大会として五輪史上でも大成功のイベントの評価が定着しています。そして今回は、東日本大震災、それに伴う福島原発事故から立ち直った日本を世界にアピールする狙いが込められたものとなるはずでした。だがコロナ禍で厳重な感染対策の下、無観客での競技という異常事態での「民族の祭典」で、日ごとに日本全土での感染拡大が続くという緊迫した毎日で、「お祭り騒ぎ」とは程遠いものとなっています。 

 IOC(国際オリンピック委員会)は、それぞれの大会での2週間強のイベントだけでなく、後世へ引き継ぐレガシーを重視する姿勢であり、公式記録映画製作もそのひとつです。そして今回、その大任を担うのが河瀬監督(52)です。「殯(もがり)の森」(2007)でカンヌ国際映画祭グランプリ(審査員特別大賞)を受賞して国際的に注目を浴び、いまや世界映画界の巨匠のひとりです。さまざまな形の「家族の絆」を描くという“小さな世界”から人間を見つめるという作風で知られるのですが、今回は、アスリートを含めて大会に直接加わる関係者が数万人に達するという一大イベントであるのに加えて、新型コロナ流行の渦中での大会という“大きな世界”が相手だけに、どのような手法で公式映画に仕上がるのか、期待が膨らむます。 

 「オリンピックは単なる世界選手権ではなく、4年に一度の普遍的な青春(universal youth)の祭典である」とは、近代五輪の創始者ピエール・ド・クーベルタン男爵の言葉です。そんな崇高な志を映像で表現したとして、「公式記録映画」の最高傑作として衆目一致するのが、市川崑監督の手になる「東京オリンピック」(Tokyo Olympiad)(1965)です。スタッフには、脚本陣には、市川夫人の和田夏十、詩人の谷川俊太郎、脚本家の白坂依志夫、撮影は宮川一夫、音楽は黛敏郎という錚々たる人々を起用するという豪華の布陣。世界的な映画検索サイトIMDb(インターネット・ムービー・データベース)の「最高のオリンピック映画」リストのトップでランクインしています(Youtubeで視聴可能。さらに、Wikipedia英語版で「Tokyo Olympiad」と検索。記事が表示されたら、最後の方に「External links」とあるので、その最初にある「A restored, full and unedited version of +++」をクリックすれば、素晴らしい高精度バージョンを視聴可能)。 

 リストの2位は「One Day in September」(1999年、ケビン・マクドナルド監督)です。オリンピック史上最悪の惨事となった1972年ミュンヘン五輪でのパレスチナ・テロリスト・グループによるイスラエル選手団宿舎襲撃・人質事件をカバーしたドキュメンタリー映画。イスラエル・アスリート11人と警官1人、テロリスト5人が死亡した痛ましい出来事でした。そして3位は、ヒューマニズムに溢れた市川作品の対極にある、ナチス・ドイツの宣伝映画色が濃い、1936年ベルリン五輪をカバーしたレニ・リーフェンシュタール監督の“悪名高い傑作”とされ「民族の祭典」(Festival of Nations)(Youtubeで視聴可能)です。日本選手の活躍ぶりが描かれているので、当時の最新鋭機器を駆使した映像美を重視の記録映画としても一見の価値があります。 

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(8/6/2021)

 

 

 

 

 

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