アメリカ101 第94回
7月23日の開会式を経て本格的な競技が始まった東京2020オリンピックでの日本選手の健闘が目立っています。地元開催という“地の利”があるにせよ、序盤では、新競技スケートボードのストリート種目で男女とも金メダルを獲得したのをはじめ、一時は「日本のお家芸」とまで言われた時期があった卓球で、オリンピックでは初めてとなる金メダルを、初種目混合ダブルスで強敵中国ペアを退けて獲得、さらにはソフトボールでの連覇など、7月26日現在で、日本の金メダル獲得数が10個となっていて、205の参加国・地域プラス難民選手団のトップです。全部で339種目でメダルが与えられるので、最終ランキングは「今後の、お楽しみ」ですが、新型コロナウイルス禍という異常事態での開催とあって、引き続き開催の是非をめぐる議論が続いているものの、少なくとも日本にとっては明るい話題となっています。
東京五輪序盤戦での日本勢の活躍を予言するような「スポーツ大国日本の台頭」を詳しく伝える長文の記事が7月12日付のロサンゼルス・タイムズ紙に掲載されました。直近のメジャーリーグ(MLB)オールスターゲームを控え、同時に東京五輪を見据えたタイミングで、グローバルな規模での日本出身スポーツ選手のトップレベルでの活躍ぶりを、広い視野で報じ、論じたディラン・ヘルナンデス記者署名入りの、スポーツ欄2ページ全面を使った特集記事です。
「VISUALIZE AND SHINE」(未来を見据えて輝こう)という見出しの記事は、大谷翔平などの現在世界的に有名な日本人スポーツ選手が小さい頃から、世界を舞台に活躍するというビジョンをもって、それぞれのスポーツに取り組んできたという共通の歩みがあり、それが現在の「日本スポーツ界の黄金時代」(golden era)を築き上げたという語り口(narrative)で、さまざまなスポーツ分野でのトップレベルの日本選手を取り上げています。
スポーツ面一面全面記事の3分の2を占めるカラーイラストでは、頂点に、残念ながら3回戦で敗退した大坂なおみを据え、次いで大谷、NBAプロバスケットボールのワシントン・ウィザードで活躍、開会式では日本選手団の旗手をつとめた八村塁を配置。4番目にフィーチャーされているのが、日本とヨーロッパを舞台に活躍するサッカーの久保建英です。東京五輪ではUー24代表メンバーとして登録、初戦の対南アフリカ、2回戦の対メキシコと、2戦連続でゴールを重ねて、その“天才ぶり”を発揮しています。そして最後は、グリーンジャケットを着て両手を挙げているゴルフの松山英樹です。今年のマスターズで日本選手として初優勝を果たしたのですが、ヘルナンデス記者は、これまでの有力選手のほとんどが、PGAツアー、欧州ツアーに次いで潤沢な賞金を手にすることのできる日本でプレーするのを選んだのに対して、松山が,“海外志向”でアメリカを舞台としている点を強調。「(松山は)日本語のインタビューで、『現在ダルビッシュや前田健太、大谷といったプレーヤーがいるが』」「ゴルフでは自分だけけなので、アメリカでゴルフを続けて、日本に良い結果を伝えることができれば、自分に続いてアメリカでプレーするものが出てくるのを期待している」と語ったと報じています。
このくだりで、ヘルナンデス記者がわざわざ記事中に「日本語のインタビュー」と記しているのには深い意味があります。それというのも、アメリカでは、スポーツ記事で日本人選手の発言を直接引用して報道する場合には、通訳を介するケースが大部分で、その際には必ず「通訳を通じて語った」との“注釈”が付きます。しかしヘルナンデス記者は新潟出身の母親というラティーノで、少年時代には夏休みを日本で過ごしたこともあって、完全な日本語を話すという、アメリカでは珍しいスポーツ記者なのです。そんなベテラン記者が執筆した全文2214ワードの「日本スポーツ界賛歌」が、この記事です。
JULY 12, 2021 3 AM PT LA TIMESより抜粋
https://www.latimes.com/sports/story/2021-07-12/shohei-ohtani-naomi-osaka-japan-has-begun-golden-age-of-sports
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(7/12/2021)