アメリカ101 第85回
アメリカでの公共図書館の素晴らしさについては、当コラム第9回で「公共サービスも受けられる図書館を利用しよう」(2019年11月29日号)で紹介しましたが、今回は、投手と打者という二刀流に加えて野手という“三刀流”で今シーズン大活躍の大谷翔平選手のルーツである日本の高校野球のフィーバーぶりを描いたアメリカのドキュメンタリー映画「甲子園:フィールド・オブ・ドリームス」(2020)が自宅でパソコン、タブレット、さらにはテレビ受像機を通じて視聴できるなど、さまざまな映画だけでなく、日本語の週刊誌や書籍にもアクセスできるという、「進化を続ける驚異の公共図書館サービス」がテーマです。
第9回コラムでも触れましたように、ロサンゼルス郡在住者はロサンゼルス市立図書館(LAPL)とロサンゼルス郡立図書館(LA County Library)という二大図書館システムに加えて、トーレンス、サンタモニカ、レドンドビーチといった各自治体が独自の図書館を運用していますが、ここでは主としてLAPLを利用するケースを想定して紹介します。昨年3月以来のコロナ禍で各図書館とも全面閉鎖となっていたのですが、今年4月から徐々に部分的に再開となり、実際足を運んで書籍やDVDなどを借りることが可能となっています。しかし、コロナ禍でも利用可能だったオンライン・サービスが一段と進化している現状と利用方法を取り上げます。
まずLAPLへのアクセスですが、www.lapl.org でホームページが開きますので、図書館利用に不可欠なLibrary Card(入館証)を持っていない方は、R-Registration(入館登録証申請)をクリック、必要事項を入力すれば「電子入館証」を入手できます。そしてあとは、それぞれ希望に応じて「Movies, TV & Video」「Magazines & Newspaper」など大項目アクセスポイントから、さらに小項目に進みます。例えば「毎日新聞」電子版を読みたければ、「Newspapers」の「Press Reader」を選ぶと世界中の新聞へのアクセスが可能で、右側のLanguageから日本語を選択すると「毎日新聞」(その他さまざまな雑誌も)が表示されるので、そこをクリックします。そして「利用図書館」をLos Angeles Public Libraryに指定して、入館証番号を入力すればOKです。雑誌や単行本の電子版なら「overdrive」からアクセスし、検索で日本語を選択すれば、「サンデー毎日」「週刊エコノミスト」「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」など“玉石混交”の雑誌・単行本の電子書籍を読むことができます。
映画やテレビ番組などの映像は、ホームページの「Movies, TV & Video」が出番。「Kanopy」「Overdrive」「hoopla digital」「Digitalia Film」「medici.tv」があり、それぞれ強み/弱みがありますが、“絶対推薦”は最初と最後のプラットフォームです。「Kanopy」は質の高い映像作品揃いで、前述の「甲子園」は昨年8月に日本で劇場公開された作品。イギリス人の父と日本人の母の間で神戸で生まれた映像作家山崎ライアン・エマが監督した2018年夏の甲子園第100回記念大会に出場した横浜隼人高校と花巻東高校の二人の監督を軸に、日本での高校野球の熱狂ぶりを描いた英語版ドキュメンタリーです。花巻東出身の大谷翔平もインタビューで出演しており、アメリカで日本公開に先立って同年6月にスポーツ専門チャンネルESPNで放映され、「野球好きの家族向けの最適の映画」という映画評もあり、高い評価を受けたものです。日本絡みでは、現在では世界的な巨匠と目される是枝祐和監督の法廷サスペンス「三度目の殺人」(2017)も必見ですが、その他「七人の侍」(1954)「東京物語」(1953)といった古典も、高画質で鑑賞できます。そして「medici.tv」はクラシック・コンサート、オペラ、バレエなど1800本以上のビデオが即時視聴できる、「クラシック・ファン」にとって文字通り「感涙に浸る」といった作品のオンパレードで、夢のような時間を過ごすことができるサイトです。近年「衰退するアメリカ」が話題ですが、図書館の進化は、その底力の一端を示すものでしょう。
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。