「ロサンゼルス駅」ではなく「ユニオン駅」なのかのナゾ

アメリカ101 第84回

 

 やや旧聞に属する話題ですが、新型コロナウイルス禍で例年より遅い425日に開催された第93回アカデミー賞授賞式、いつものハリウッドのドルビー劇場に加えて、ダウンタウンにあるユニオン・ステーション(ユニオン駅)が会場となりました。収容人数3400人という大劇場だけではなく、コロナ禍での密集を避けるために、高級なナイトクラブであるサパークラブを模した雰囲気を演出、視聴者の関心を高めるために、ゆったりした空間を確保でき、しかもロサンゼルス有数の歴史的建造物である駅舎を利用するというのが狙いだったようですが、前号のコラムで触れましたように、テレビ視聴率は史上最低という結果でした。 

 通常は、映画製作過程の結晶である作品賞発表でクライマックスという運びなのですが、今回は、奇をてらって、主演男優賞を最後の発表部門に据えていました。というのも、黒人の演技派俳優として大俳優への道を歩んでいたチャドウィック・ボーズマンが、1920年代のジャズ・トランぺッターとして成長する黒人奏者を演じて主演男優賞最有力候補との前評判があり、しかも昨年8月に大腸がんで43歳という若さで惜しまれながら早世したということもあって、昨年の「Black Lives Matter」(黒人の命も大切)運動の高まりを、ボーズマンへの主演男優賞授与で締めくくり、クライマックスとするというシナリオがあったようです。それが外れてしまい、さらには認知症の老父がテーマの「ファーザー」で受賞したアンソニー・ホプキンスが、選外予想でイギリスの故郷ウェールズに滞在中であり、しかも事前の「ホプキンス受賞」の準備がなく、尻すぼみのうちに終了という不手際ぶりでした。 

 

 今回アカデミー賞会場となったユニオン・ステーションは、鉄道利用で訪れたことはなくとも、チャイナタウンに隣接し、巡回ミニバスDASHのルートにあり、幹線道路アラメダ通りに面しているため、そのミッション・スタイルとアールデコ風の建築様式、そして時計塔という特異なスタイルを目にした方も多いでしょう。実質的には鉄道駅としては「ロサンゼルス駅」なのですが、どうして「ユニオン駅」という名称であり、しかも首都ワシントンや全米第3の大都市シカゴなどアメリカ各都市や各地に100以上の同名の駅舎があるのでしょうか。 

 それはユニオン(Union)が「統一/団結」を意味する単語だからです。アメリカの鉄道網では、創生期以来「国鉄」(国有鉄道)は存在せず、民間の鉄道会社が全米各地にそれぞれの路線を開設、都市部に乗り入れる路線では、市内で終わりとなるターミナル方式の駅舎を個々に建設してきました。しかしダウンタウンに何カ所もターミナル駅があるのは、利用者にとって不便であり、鉄道会社も「1都市1駅」となればコスト節約にもなるとして、複数の鉄道会社が共用できる「各社の路線を統合したユニオン(統一)駅」が各地で誕生したわけです。 

 ロサンゼルスの場合は、旧中華街があった場所に現在のユニオン駅が1939年に建設されるまでは、サザン・パシフィック、ユニオン・パシフィック、アッチソン・トピカ・アンド・サンタフェ(通称サンタフェ)という三大鉄道会社が、市内に独自にターミナル方式の駅舎を構えていました。いずれも現在のダウンタウンの東側、ロサンゼルス川に接した地域に駅舎があったのですが、ビジネス界、ロサンゼルス・タイムズ紙、ロサンゼルス市議会などを巻き込んだ大論争を経て住民投票で「統一駅ユニオン・ステーション」誕生となりました。「ユニオン駅」としてはミシシッピ川以西では最大規模であり、建物内外の装飾の素晴らしさもあって「歴史的建造物」として保護の対象となっています。因みに全米最大の都市ニューヨーク市には「ユニオン駅」はなく、主として地方路線が乗り入れるグランド・セントラル駅と、鉄道会社名が由来のペンシルベニア駅の二大駅舎があります。


著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


 

 

 

 

 

 

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