アメリカでのガンの大きな“供給源” 「駐車したピックアップ・トラック」

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アメリカ101 第222回

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ロサンゼルス郊外にあるウォルマートの広大な駐車場の一角で今月初め、フェンダー・ベンダー(fender bender)という小さな交通事故の“加害者”となった59歳の男性ドライバーが、謝罪のために車外に出て、歩み出したとたんに、ぶつけられたクルマから出てきた“被害者”側の37歳の女性ドライバーが発砲した短銃で顔面を撃たれて死亡するという事件がありました。些細な発端で殺人事件に発展したというこの出来事は、「クルマとガン(銃)」という組み合わせが珍しくないロサンゼルスでのライフスタイルが引き起こす最悪の事態を示すもので、改めて“銃社会”アメリカで生活するにあたって、微小ながら厳然と存在するリスクの大きさを示すものといえます。  

ロサンゼルスに住むようになって大方の向きに欠かせないのがクルマです。ダウンタウンやショッピング・センターに近い地域に居住し、公共交通機関へのアクセスが良く、職場への通勤や日常生活に必要な買い物がは徒歩で済ませるのも可能でしょう。だが、ちょっとでも郊外に住むことになれば、クルマは必需品となります。そして注意する必要があるのは、アメリカではクルマと銃(ガン)には切り離せない密接な繋がりがある点です。  

あまり知られていないのは、アメリカでのガンの大きな“供給源”が、正規の銃砲店や個人の銃保有者からの購入や譲渡ではなく、「駐車中の自動車内」、とくに「駐車したピックアップ・トラック」ということ。  

銃規制を推進する市民団体「すべての街角での銃安全を」(Everytown for Gun Safety)が、全米271都市でのFBI(連邦捜査局)犯罪統計を分析したところ、2020年には、これらの都市だけでの駐車中の自動車からの銃器盗難数が推定4万丁に上っています。言い換えると、アメリカでは、手軽に銃器を入手するのには、そこら中に駐車しているクルマを探せば、かなり高い確率で銃が見つかるということのようです。自宅に戻っても、こどもを含む家族の存在を考えると、銃器を室内に持ち込むのを避けるケースが多いので、車内に置き去るとみられています。  

この市民団体によると、一部都市では若者の犯罪組織が市街地や大規模なスポーツ・イベントが行われているスタジアムの駐車場で、施錠していないクルマのグローブコンパートメントや座席の下を探して銃を入手するというケースも珍しくないようです。10年ほど前には、銃器の盗難件数のうち4分の1がクルマ内からのものだったのが、2020年には半分以上がクルマ内からの回収となっているとのことで、車内に銃器を放置しているケースが増えているのを物語っています。  

以上が冒頭で紹介した事件の背景を理解する前提で、サンバーナディーノ警察によると、同郡ハイランドにあるウォルマートの駐車場で今月5日午後8時ごろ、1998年型シボレー・カマロ・スーパースポーツに乗ったカーマニアの男性が、駐車場で後部からトヨタ・カムリに衝突したのが発端。同警察は、この女性ドライバーが「腹を立てていた」(upset)と形容していますが、9ミリ口径の短銃から一発を発砲したあと、すぐクルマで走り去ったとのこと。  

警察では駐車場の監視カメラや目撃者などの情報から、この女性の身元を確定、殺人容疑で身柄を確保。また家宅捜査で短銃を発見したあと、鑑識の結果、この事件で使われた凶器と断定、逮捕に踏み切ったようで、銃社会アメリカの実相のひとつでしょう。

 

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(2/22/2024)

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