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アメリカ101 第221回
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「governor」という英語の単語を見て、大方の日本人の頭に浮かんでくるのは、都道府県の行政最高責任者である「知事」でしょうか。それとも、ヒット・ミュージカル「マイ・フェアレディ」(My Fair Lady)で、イライザ・ドゥ-リトルの父親アルフレッドが、娘の貴婦人への“変身教育”をほどこすヘンリー・ヒギンズ教授を繰り返し、日本語の「旦那」を意味する「governor」と呼ぶシーンでしょうか。
それなら「use of speed governor technology」という表現はどうでしょう。文法的には意味をなさないものの、強引に解釈して、「有言実行で、公約を迅速に遂行する知事の手腕」というような意味合いを指すことが考えられるでしょうか。だが本当の意味をすぐ理解できるのは、日本人の間では、サイエンスに詳しい向きだけでしょう。
「California bill would require speed-limiting devices in cars」(ロサンゼルス・タイムズ紙1月26日付)や「Debate continues over vehicle speed bill」(サンマテオ・デイリー-・ジャーナル紙2月12日付)といった見出しで伝えられた、カリフォルニア州での自動車の速度制限に関する新聞記事を読みながら、その文中にある、この「speed governor」に「?」となった筆者のお粗末な「英語読解力」の一幕が今回のテーマの“序幕”です。
これらの記事は、カリフォルニア州議会で、交通事故を防ぐために、走行区間の制限速度を時速10マイルオーバーすると自動的にスピードを抑える仕組みをクルマに装備するよう定める法案が上程の運びになったというのが内容です。
ネット英和辞典(英辞郎)を検索すると、「governor」とは「知事」や「支配者」「統治者」「管理者」を意味するという記述に加えて、「《工学》ガバナー、調速機、律速機、流量・速度などを一定にする機構」という、日常的には見かけない説明が出てきました。そして、「ガバナー」というカタカナ表記はもちろんのこと、「調速機」「律速機」といった日常的には見かけることのない単語が、ローマ字入力すると、間違いなく単語として表記されるのは、筆者のような“サイエンス音痴”にとっては驚きでした。
本題の「自動車調速法案」ですが、「州議会上院法案961号」と呼ばれる法案で、サンフランシスコ選出のスコット・ウィナー上院議員が無法運転や衝突事故による死者を防ぐ狙いで1月24日に提出したもの。成立・制定となれば、カリフォルニア州では2027年までにすべての新車の乗用車やトラックに「speed governor」(調速装置)が義務付けられます。
法案は議会に提出されたばかりで、これから手直しのための関係者の意見聴取などが行われますが、同装置を「受動的」(passive)なものとするか、あるいは「能動的」(active)なものとするかは未定です。「能動的」な仕様では、速度制限を時速10マイル以上オーバーすればブレーキが自動作動して速度を落とすようになります。すでにEU(欧州共同体)域内では「受動的」な仕様が義務付けられており、制限速度をオーバーすると、減速を促す警鐘が鳴る仕組みだということです。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(2/14/2024)