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アメリカ101 第217回
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毎年、「新年おめでとうございます」「ハッピー・ニュー・イヤー」という斉唱で新しい年を迎えるのですが、アメリカでは近年自殺者が年を追うごとに増加を続けており、「ハッピー」とばかり言っていられないようで、昨年(2023年)の政府統計データは明らかでありませんが、2022年にはほぼ5万人が自殺しており、過去最高を記録しました。
自殺者の年次推移グラフはここ20年間では右肩上がりで、この傾向はまだ続くとみられており、経済成長が続き、一見して繁栄社会の様相のアメリカの影の部分が浮き彫りとなっています。 日本では自殺者に関するデータは警察庁で集計しているのですが、アメリカでは疾病対策予防センター(CDC)が担当。そして2022年の日本での自殺者は2万1881人でしたが、一方アメリカでは約4万9500人で、1941年以来の最高を記録しました。
1941年というのは、1930年代の大恐慌の影響がまだ残っている時期でしたので、「大恐慌以来最高」ということになります。
大恐慌という歴史的な景気後退にあたって経済苦境に直面した人々が自殺に追い込まれるのは理解できるのですが、2022年のアメリカ経済は通年でGDP成長率は2・1%を達成しており、前年の5・9%から大きく減速したものの、プラス成長だったことからすると意外な感じがします。
そのような状況からすると、なにやら「(将来に対する)何かボクの将来に対する唯ぼんやりした不安」という言葉を残して自殺した芥川龍之介の“遺言”を思い出させます。 近年日本では「自殺」という表現に代わるものとして「自死」という言葉が妥当との意見も出ていますが、アメリカを含む「英語世界」でも「suicide」を、それだけの単独として使用するのではなく、そうではない表現を探る動きがあります。
例えば、頻繁に使われる「committed suicide」という記述には、「committed」という単語自体に「(悪事を)働く」という文脈で使われるケースが多いため、それ自体が否定的な意味合いを含むということから、「died of a heart attack/stroke」のように、直裁に「died by suicide」と表現するのが好ましいということになります。さらに、「suicide」自体が“垢まみれな”単語という観点から、「killed him/herself」あるいは「took his/her own life」と表現して、「suicide」を使用しないという選択が好ましいという考え方もあるようです。
また「自殺未遂」についても、「failed suicide」という表現も問題視されています。「failed」(失敗した)という形容詞が適当でなく、「nonfatal suicide attempt」や単に「suicide attempt」で十分ではないかというわけです。また自殺が「selfish act」だといった表現が目につくというのも、「自己満足」あるいは「自分が好きだから」自殺するのではないので不適当だというわけです。 というわけで、「英語世界」であるアメリカで住むのには、なかなか気苦労が絶えないという話題でした。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(1/16/2024)