プロ野球スカウトマンはつらいのか

 2023年のプロ野球は阪神タイガースの38年振りの日本一で幕を閉じた。11月16日から行われた「アジアプロ野球チャンピオンシップ」の優勝、春は大谷選手などの活躍で「WBC」優勝もあり、普段野球を見ない人々も大興奮、野球界にとって最高の一年だったのではないか。

 光と影があるように、毎年この時期各球団から来シーズン選手契約しない戦力外通告が行われる。今季際立つのが、在籍期間が短いドラフト1位指名選手の戦力外通告数だ。ソフトバンク2015年入団の高橋投手や19年斉藤外野手、西武17年斉藤投手、広島15年岡田投手、阪神15年高山外野手、巨人17年鍬原投手など、彼らが夢と自信を持ってプロ野球の世界に入って来たのは数年前のこと。家族はもちろん、学生時代の仲間や監督ら、期待をしてくれた多くの人に、活躍して恩返しを誓っていたはずなのに、志半ばでプロ野球界を去らなければならない。断腸の思いだろう。

 担当スカウトもまた辛く悲しい思いをしているのでは。ドラフト1位になる程の素材なので、高校生なら2年間、大学生なら3~4年間ネット裏から彼らを見続けていた。北は北海道、南は沖縄まで有力選手を求めて飛び回る。見つけてもドラフト会議の複数指名で負ければ、外れ1位を狙い、そこでも負ければ次の選手も考えなればならない。苦労の末やっと獲得しても仕事は終わらない。契約前に家族、監督に「立派な選手になって貰います。」の挨拶回り。それからたった数年で戦力外になってしまう。過酷な仕事だ。「選手の将来を見る目が無いのか、それとも首脳陣の育成方法が間違っていたのか…。」と自問自答する中、戦力外となった選手と何を話すのか。

 しかし嬉しい事も。創価高校から創価大学を経て昨年の巨人ドラフト4位で入団した門脇誠は、高校時代の同期に大阪桐蔭の根尾(中日)など甲子園出場のスター選手が目白押し。全国人気にはならなかったものの大学時代は活躍し、巨人に入団するや頭角を現し始め、シーズン後半には坂本の離脱もありショートのレギュラーとなる。シーズン成績126試合、打率263、本塁打3、打点21の上出来の結果を残した。背番号35から、来シーズンは清原選手も使用していた5番に格上げ。更に先日のアジアプロ野球チャンピオンシップの大活躍でMVPと100万円を獲得。誰が門脇のこれ程までの活躍を予想しただろうか。

 いました!担当スカウトマンです。彼らはきっと門脇選手の凄さを知っていたのだ。侍ジャパン井端監督に「門脇は一度の失敗は二度と繰り返さない。末恐ろしい!」と言わしめた。スカウトは大変な仕事だが、こんな素晴らしい選手を見つける事が出来るなら辞めるわけにはいかない。

 

 

 

■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。

 

 

 

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