.
.
アメリカ101 第206回
.
サンフランシスコで交通事故を減らすために、これまで実施されてきた「RTOR」という「赤信号でも安全を確認できれば右折は可」(right turn on red)という規範を禁止する動きが勢いを増しており、ドライバーの間だけでなく一般市民の広範な関心を引き起こしています。
「赤信号でも右折できる」を“金科玉条”としてきたロサンゼルスなど南カリフォルニアのドライバーにとっては、このような動きは、実施不可能だとして一笑に付する類のものでしょうが、RTORの結果として幼児を巻き込む悲劇的な事故が大きく報じられると、その禁止あるいは制限へ向けた動きがロサンゼルスでも強まる可能性があります。
実は、このRTORは、アメリカの西部諸州では長年にわたり交通規範として認められていたのですが、東部諸州でも1973年以降、当時のエネルギー危機を受けてガソリン節約の観点から、交差点でのアイドリングによる“浪費”を減らす一策として採用されてきました。
「交差点で赤信号となっていても、安全に右折できる状況にあれば、安全を確認しながら右折進行を続ける」というわけで、連邦政府も各州への交通関係の地方交付金供与に関連して、「右折」を義務付けています。だが例外としてニューヨーク市は、原則的にRTORは禁止を前提としながらも、「交差点で赤信号となっていても、安全に右折できる状況にあれば、右側に進行する」という旨を交通標識として表示するという措置を採用しました。また首都ワシントンについては、2025年に赤信号での右折を禁止する運びです。さらにシアトルは準備が整い次第、市内すべての交差点で「赤信号での右折禁止」を予定しています。
今回サンフランシスコが赤信号での右折について厳しい規制を講じる方向に転換したのは、ことし8月に市内の交差点で、4歳の女児が右折する車両に轢かれて死亡する事故があったためです。
「赤信号右折可」を禁止する動きを強く推進しているのは、サンフランシスコの市議会に相当する市参事会のメンバーであるディーン・プレストン参事。
サンフランシスコ市では2024年末までに「交通事故死ゼロ」を目指す「ゼロ・ビジョン・イニシアティブ」(Vision Zero initiative)を立ち上げており、その達成のために、悪名高い市内テンダーロイン地区を対象に、「赤信号での右折不可」(no turn on red)とする50カ所の交差点を定めています。サンフランシスコ市警によると、この地域では大きな車両衝突事故が他地域に比べて10倍も多く発生しており、市内で初めてスピード制限を引き下げる対応措置もとっています。プレストン参事は地元選挙区がテンダーロイン地区であるために、地元での事故防止対策に熱心なようです。 プレストン参事は、「赤信号でも右折を認めることで、死傷者や事故が増え、クルマが交差点を塞ぎ、歩行者の通行を妨げる結果となり、危険極まりない」として、「われわれは、『赤信号での右折禁止』を市内全域に拡大すべきだと考える」として、参事会に働きかけていく決意を表明しています。
サンフランシスコ市運輸局(SFMTA)スポークスマンはメディアに対して、プレストン参事の提案については検討を進めているとしながら、対応にはまだ時間がかかると言明。また同参事もSFMTAと連絡をとっていることを確認しており、そう遠くない将来に何らかの対応があるとの期待を表明しています。
.
.
.
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(10/24/2023)