カリフォルニア州を離れない人々 北部からロサンゼルス近郊などの南への移動が活発

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アメリカ101 第188回

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「南高北低」とでもいうべきでしょうか、アメリカで最大の人口を抱えるカリフォルニア州での人口動態の現状です。「州北部での人口減少、同南部での人口増加」というわけです。それが、すぐにどうこうというわけではありませんが、漠然とした“勢い”が、サンフランシスコを中心とした北部から、ロサンゼルスやサンディエゴを中心とした南カリフォルニアに移りつつあるという歴史的な趨勢が加速しているのは否定できないようです。  連邦政府の国勢局(Census Bureau)のデータによると、コロナ禍にあった2020年7月から2022年7月までの2年間でみると、北部の主要都市の人口減少が顕著で、サンフランシスコを中心としたベイエリアが一様にマイナスとなっているのに対し、ロサンゼルスの東に位置するリバーサイドや州都サクラメントの近郊、フレズノ郡などでの人口が増えています。  とくにサンフランシスコの“退勢”が目立ちます。コロナ禍で自宅や遠隔地でのリモートワークが増加したのに伴う現象です。サンフランシスコのユニオンスクエアを中心としたダウンタウンでの治安悪化に伴う大型リテール店舗の閉店については、5月10日号での当コラム(185回)で取り上げましたが、最新データでは、ベイエリアからシリコンバレーにかけての一帯での人口減が進んでいるようです。  最大の人口減はサンフランシスコ市で-7・1%。そして、その近郊あるいは南に伸びるサンフランシスコ半島にあるデイリーシティ(-4・4%)、バークリー(-4・2%)、サンマテオ(-4・1%)、サンノゼ(-3・8%)といった中小都市も軒並み減少です。  とくにサンノゼは、減少幅が実数で4万人減となった結果、全米の人口トップ10都市のランクから脱落する有様。人口を減らした合計30の市・郡・非市政施行区域のうち、28が北部に位置する都市で、南部ではカーン郡のタフト(5・8%減)とテハチャピ(4・6%減)だけでした。

一方で人口増を記録した都市は、いずれも人口10万人前後の規模です。リバーサイド郡南部のメニフィー(6・0%増)、サクラメント近郊のローズビル(4・3%増)、フレズノ郡のクロービス(3・2%増)、リバーサイド郡のマリエータ(2・2%増)などで、いずれも広い意味での南カリフォルニアに位置しています。

カリフォルニア州は1850年9月にアメリカ合衆国の第31番目の州に昇格したのですが、その当初の州の経済活動の中心は、漁業とゴールドラッシュ関連サービスの拠点であるサンフランシスコを中心としたベイエリアでした。そして当時のロサンゼルスは、鉄道による流通の拠点ではあったものの、“寒村”の域を出ない場所でありました。このため、カリフォルニア州の州都は、モントレー、サンノゼ、バレーホ、べネシアと、サンフランシスコ周辺を転々としたあと1854年にサクラメントに“定着”し、現在に至っています。そして一方の、20世紀になって急速に発展するロサンゼルスは、長い間にわたり“新興都市”でした。このため、カリフォルニア州での連邦政府の主要な出先機関は、現在に至るまでもサンフランシスコに集中しています。

しかしロサンゼルスは、鉄道の流通拠点であったことに加えて、1910年代半ばからは、東海岸から移ってきた映画産業が急速に拡大、「ハリウッド」が娯楽業界の代名詞となります。さらには第二次世界大戦を契機に一大航空宇宙産業の中心地に発展して、サンフランシスコを抑えて、カリフォルニア州最大の経済圏を形成するわけで、そんな流れからすると、人口動態の「南高北低」は当然という、カリフォルニアの“二都物語”です。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(5/30/2023)

 

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