新国王チャールズ3世と共に王冠を受けたカミラ王妃 35年前日本で見せた素顔

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アメリカ101 第186回

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半世紀以上前になりますが、大学を出て新聞記者になったばかりの頃、ある先輩記者に連れられて会社から近い新橋駅近くの居酒屋で、さまざまな記者としての心得を教え込まれました。もちろん職場では、記者としての公式な教習が1週間ほど続いたのですが、週末の“課外講義”ということで、アルコールを飲みながらの非公式な忠告やアドバイスが延々と続き辟易(へきえき)とした記憶があります(当方は下戸なので、麦茶でのお相手でした)。最後には「定年退職後の身の振り方」にまで及ぶ、懇切丁寧なものでした。現役記者を退いてから、すでに4半世紀にもなるのですが、そのアドバイスの中で、忠実に守ってきたのが、「自慢話はしないこと」です。

それというのも、新聞記者OBは、何かと現役時代に特ダネを連発した自慢話をする向きが多く、老人ホームなどの施設で老後の生活を過ごす中で、「(取材で食い込んだ首相や政治家を、呼び捨で)XXなんかは2世政治家でネ、ボンボンなんで何にも知らないので、色々と教えてやったものだ」と大言壮語して、施設の同居人から嫌われるのが多いという話を耳にしているからです。

しかし今回は、そんなオキテを破って、5月6日のロンドン・ウェストミンスター寺院での戴冠式で、新国王チャールズ3世と共に王冠を受けたカミラ王妃と、35年ほど前に東京で偶然に出会い、二人だけで5分ほど会話を交わしたことがあったという、「昔話」というか「自慢話」です。

時は2008年10月、場所は日比谷の帝国ホテルに近い宝飾店内でした。この年は、日英修好通商条約調印150周年で、一連の記念行事に出席のためにチャールズ皇太子(当時)は公賓として訪日中。ダイアナ妃との結婚前から親しい関係にあり、2005年に結婚したカミラ妃が同行していたのですが、この日は皇太子とは別行動で、ホテルに近い、有楽町の高速道路下のアーケードにある、主として外国人向けの、いくつかの店舗でショッピング中だったようです。

一方当方は、当時現役のロサンゼルス特派員で、仕事で一時帰国中でした。家人から、昔、そこにある宝飾品店で購入した指輪のサイズ調整を頼まれていて、その店内にいたところ、突然護衛もなしにカミラ妃がひとりで、ぶらりと入ってきたというわけです。一応“記者魂”を発揮して、持っていたカメラを持ち替え、「写真を撮ってよろしいでしょうか」と英語で尋ねたところ、笑顔で「オフコース」との答え。早速数枚のスナップ写真を撮ったあと、「日本滞在はいかがですか」から始まって、数分間「idle talk」(雑談)をしたのですが、そんな会話に慣れた王族らしい外交的な受け答えでした。

長年海外特派員を経験すると、日本が関連した国際的なイベントや日本政府高官の公式訪問などで、任地国から近隣諸国での取材に駆り出されることが度々あります。アメリカやヨーロッパの主要都市であれば、駐在特派員がいるわけですが、中東、アフリカなどとなると、カイロやベイルートに常駐する特派員が出掛けるケースが多くなります。そんなわけで、両都市に駐在していた際には、サウジアラビア、ヨルダン、エチオピア(現在は共和制の移行)といった王国に出張取材に行くことになり、国連の特別総会が開かれた首都アジスアベバでは、晩年のハイレ・セラシエ皇帝臨席の宮廷での晩さん会で、初めてエチオピア料理を口にし、インジェラを食したものです。  以上、本誌発刊1000号という華やかな記念イベントに合わせて、ちょっと「ハイソ」な話題でした。本誌の今後の一段の発展を祈ります。

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(5/11/2023)

 

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