毎日新聞、長期連載マンガ「アサッテ君」でお馴染みの東海林さだおさんの新刊『貧乏大好き』(だいわ文庫)が圧倒的に面白いのだ!もしかしたら私が日本で一番好きな漫画家でありエッセイストかもしれない。落ちこぼれサラリーマンの悲哀とお笑いペーソスを描かせたら右に出るものはいない。嫌なことがあっても東海林さんのマンガを見ると全てが吹っ飛ぶ。人生どれだけ救われたか。
冒頭から凄いのだ。「貧乏を恐れてはいけない。かといって親しむものでもない。わざわざ近寄っていかなくても、ちゃんと向こうから近寄ってきてくれる。」いきなり貧乏論から始まる。早くも目が離せない!
そして「スケールの小さい人間」というのを著者自らの行動で紹介している。ローソンでのおでんの買い方として「備え付けの容器におでん汁を店員が横目で見ている中、お玉で何杯まで入れて良いのか。もちろん10品以上購入の場合は大きな顔が出来るが、しらたき一品の場合は2回すくえるのか。注意されるのか。」というレジ前での緊迫した客の心理状態が見事に描かれている。また「セブンイレブンの具だくさん弁当を電子レンジで温めて貰った。弁当の中の温かくなってしまった梅干しを許せる自分がいる!昔は嫌だったのに。」と、たかが梅干しなのに揺れ動く心の描写が絶妙すぎるのだ。
貧乏話は続く。食堂でカレーライスを注文し「やってきたカレーライスの横に当然いると思っていた福神漬けとラッキョウ。福神漬けしか確認出来ない。ラッキョウは何処に…」動揺したまま食事に突入する心構えを適切に教えてくれる。私もどれも何度となく経験したことがあるが大変参考になった。
朝の貧乏も見逃せない。洗面所で歯磨きの時、不覚にも4㎝以上歯磨き粉が出てしまう。取り返しの出来ない失態だ。普段は2㎝しか出さないと決めているのに。押し戻すこともできず自分を許すこともできない。一日が嫌になってしまう。しかし東海林さだおさんは「自分を責めないで」とアドバイスしてくれるのだ。読んでいて涙が止まらない。食堂での疑問も読者に投げかける。「何故お刺身御膳、天ぷら御膳というのに、アジフライやめざしは定食になってしまうのか。アジフライ御膳でもいいのでは!」恐るべき指摘。そうなんです、この本面白すぎるのです。
東海林さんの作品はどんな時でも楽しい事しか紹介していない。まさに見習いたい人生の考え方です。ちなみに東海林さんお薦めの大衆食堂は吉祥寺「まるげん食堂」だそう。日替わり定食700円で物凄いボリューム感!先日はロースの生姜焼きとハッシュドポテトのセット。絶対に美味しい!今度行かせていただきます。
■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。