日本の時代劇映画から世界の名作まで トーランス公共図書館の品揃え

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アメリカ101 第146

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 「座頭市」といえば勝新太郎、勝新太郎といえば「座頭市」というほど、映画好きの日本人にとっては、シリーズ物の時代劇映画の代表作ですが、その全作品のDVDを揃えている、「知る人ぞ知る」小さな公共図書館がロサンゼルスにあるのをご存じでしょうか。今回は、そんなたぐいの「役に立つ情報」をお伝えするコラムのひとつです。これまでは、硬派の話題を取り上げるケースが多かったのですが、折に触れてロサンゼルスでの日常生活での足しになることをと考えています。 

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 何かの縁で「映画の都」を抱えるロサンゼルスに住むことになれば映画への関心が一段と高まるかと思いますが、そのような向きには「hidden gem(珠玉のような貴重な存在)であるトーランス公共図書館ノーストーランス(North Torrence)分館(3604 Artesia Blvd, Torrance CA 90504 )を訪れてください。ロサンゼルス一帯にはロサンゼルス郡やロサンゼルス市、そしてその他の市が運用する公共図書館が本館、分館が合わせて200ほどもあるのですが、座頭市シリーズDVDを全巻を一カ所で揃えているのは、ここだけという点だけでも、この分館のDVDの品揃えの素晴らしさがうかがえます。 

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 座頭というのは、江戸時代の盲人の階級のひとつを意味するのですが、それから転じて按摩や針灸、琵琶法師などの呼称となったとのこと。その侠客である「座頭の市」が諸国を流浪しながら、抜きん出た剣術を駆使して悪人を懲らしめるというアクション時代劇シリーズが「座頭市」です。1962年に大映が勝新太郎を主役の市として起用して映画化、大ヒットして、テレビシリーズにもなったほどで、海外でも勧善懲悪という分かりやすいストーリーで人気を博して、全部で26作品が制作されています。 

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 そしてアメリカでは、「重要な古典映画と現代映画」の集大成をDVDおよびブルーレイで、映像を修復、解説冊子や解説トラックなどの付加価値を加えたバージョンを「クライテリオン」(Criterion)という家庭用ビデオ配給会社が制作・販売していますが、その一環として、「座頭市」シリーズのすべての劇場映画作品を全8巻で収容したDVDを、ノーストーランス分館で一括して借りることができるのです。 

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 州際高速道路I405の出口の近くのArtesia Blvdに面して位置し、公園に隣接しているために、こじんまりした図書館ながら駐車スペースは十分。入口の左手の壁一面にDVDの多段棚があるほか、小さな二つのトロリーには、ひとつは新着のDVDやブルーレイ、そして二つ目にはCriterionブランドのDVD/ブルーレイの映像作品が陳列されています。これだけまとまったCriterionシリーズが集められているのは、ロサンゼルスの図書館では珍しいことです。 

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 またDVDの棚には、他の図書館では見かけない貴重な長編ドキュメンタリーがいくつかあります。ひとつは1973年から翌年にかけてイギリスのITVチャンネルで放映された「The World at War」(世界大戦)。全部で26エピソード、計22時間半という第二次世界大戦を網羅した一大戦史。ナレーターはイギリスの名優ローレンス・オリビエ卿、音楽はアメリカ出身のカール・デービスが担当、正統派のクイーンズ・イングリッシュと、長く記憶に残るメロディーで、長大な歴史ドキュメンタリーを飽かずに見せるという名作です。もうひとつ見逃せないのが、「これを視聴せずには、アメリカの歴史を語ることはできない」とされる、アメリカのテレビ・ドキュメンタリーとして比類のない評価を獲得した、記録映画の巨匠ケン・バーンズ監督による「The Civil War」(内戦/南北戦争)(1990PBSで放映)です。このような二つの名作を手軽に手にすることができるのはここだけです。是非とも訪れる価値がある図書館でしょう。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(8/2/2022)

 

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