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アメリカ101 第118回
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アメリカでこのところ、「大変なこと」が起こっているような兆候が、さまざまな分野で顕在化しています。政治面での分断状況に加えて、新型コロナウイルス禍で「異様」な現象が目立ちます。「社会の継ぎ目にほころびが目立っている」が適当かもしれませんが、前兆を示すいくつかの「炭鉱のカナリア」(Canary in a coal mine)現象を探ってみたいと思います。
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例えば、ここ数週間ロサンゼルスで大きな話題となっている「列車強盗」があります。アメリカ最大の港湾施設ロサンゼルス/ロングビーチ港で荷揚げされたコンテナ貨物の大部分はユニオン・パシフィック(UP)鉄道の路線を使って全米各地へ搬送されるのですが、そのコンテナ列車がダウンダウン東側のリンカーンハイツにある広大な操車場を経由するアラメダコリドア(Alameda Corridor)の線路で略奪の標的となり、UPの発表では、毎日のように約90個のコンテナが盗難にあっているとのこと。
停止中の貨車や、低速の貨車の非常レバーを操作して停車させた車両に積まれたコンテナのカギをこじ開けて、高級ブランド商品や高価なエレクトロニクスなど金目のものを探し出して強奪するという手口。犯行現場一帯は破棄された段ボールや包装が散乱するという光景が、路線のあちこちにみらというわけです。現場付近はロサンゼルスでも有数の犯罪多発地域で、路線沿いにはホームレス集落があり、犯人グループは、これらの人々を使って犯行に及んでおり、現場は無法地帯もどきです。鉄道路線は鉄道会社の管轄下にあり、UPは自社の鉄道警察組織で警備しているのですが、人手不足や機材不備で後手に回っています。現行犯で逮捕しても大部分が軽犯罪扱いで、犯罪抑止効果がなく、対策強化でロサンゼルス市警(LAPD)や同郡警察(シェリフ)の協力を求める方針です。
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一方サンフランシスコでは「万引き蔓延」です。ドラッグストア大手ウォルグリーンは、昨年10月に新たに5店舗を閉店、2016年から同市内で計22店舗の閉鎖を余儀なくされています。そんな状況を、経済専門紙ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「万引き天国となったサンフランシスコ」(San Franciso Has Become a Shoplifter’s Paradise)(2021年10月19日付)という大見出しで伝えています。同市内の全店舗での万引き件数は全米チェーン店舗平均の4倍に達しているとのこと。その背景には、カリフォルニア州では2014年の住民投票により、被害額が950ドルまでの万引きは微罪扱いで、刑事訴追の対象外になったのが影響しているようです。
全米小売業連盟によると、アメリカでの万引き件も5年連続で増加、しかも増加率は60%にも及んでいます。だが万引きが疑われるケースでも、店員の身の安全に加えて、訴えられる可能性もあるとして、摘発を控えるよう店員や警備員を指導しているところもあるようです。
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著名な評論家でブロッガーでもあるマシュー・イグレシアス氏は今年になって、「あらゆる悪い行いが上昇」(All kinds of bad behavior is on the rise)とのタイトルで、2020年以来、殺人事件、危険運転による死亡事故、ドラッグ悪用、旅客機内での暴力行為などなど、広範囲にわたるBad behaviorの増加統計を引用したツイッターを流し、反響を呼んでいます。さらにニューヨーク・タイムズの有名コラムニスト、デービッド・ブルック記者も「どうしてそんな多くの人々が悪い行為に走るのか」(Why So Many of Us Behaiving So Badly? 同14日付)と疑問を投げかけています。「コラムニストなので何らかの答えを記すべきだが、現時点では分からない」と匙を投げた感じで、「状況は恐ろしい(dire)」と文章を締めくくっていて、「大変なこと」の事態の重大さを指摘しています。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(1/21/2021)