口腔がんであごを失ってしまった患者に出会い、歯科医師から研究者の道へ進んだ北郷明成さん。現在はUCLAで研究所を運営しながら再生医療の研究、教育に携わる
UCLA医学部外科 形成外科・再建外科助教授
北郷 明成
Akishige Hokugo
日本では大学病院の口腔外科に勤務していた北郷明成さん。渡米から12年経った現在、UCLA医学部で再生医療の研究と教育に情熱を注ぐ。
今でも思い出すという口腔がん患者の存在が、北郷さんが臨床から研究へとキャリアをシフトするきっかけになり、そして今でも研究のモチベーションになっている。
大学病院で外科手術などを行なっていた当時、担当していた患者が口腔がんであごを取り去り、移植骨による再建手術を受けた。
がんの治療は抗がん剤や放射線、切除手術と段階を踏んで行われるが、放射線によって移植周囲の健康な組織もダメージを受けてしまうため、再建手術で移植した骨が生着せず機能しない場合がある。
「あごは人間にとって、コミュニケーションや生活で最も大事な部分。話す、食べるといったことが普通にできなくなると、QOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)が著しく低下する。そういう患者さんを見て、何とか助けてあげたい、それを打開できる研究はないか」と考えた北郷さんは、基礎研究への道へ進んだ。
そして京大再生医科学研究所で生体材料を用いた再生医療の研究に携わるようになると「失われた体の一部を再生する研究にのめり込んだ」と振り返る。
研究がより進んでいる米国へやってきたのは、2007年のこと。UCLAにて研究室を持つようになり、これまで「再生医療の枠でいろいろな成果を出すことができている」といい、講演会なども頻ぱんに行っている。
医学の道へ進んだのは、子どものころに通っていた「心が広くて、地域医療にすごく貢献している街の歯医者さん」にあこがれて。
歯学部に入り、当初は街の歯医者さんになるつもりで勉強に励んでいたが、臨床実習で出会った天才口腔外科医の手術を見てあこがれを抱き、口腔外科医の道を選択した。
「チャンスがあればその波に乗ろうといつも思っている。やった後悔よりやらなかった後悔のほうが大きいから」と話すように、フレキシブルに節目の決断を下してきた。
次から次へと出てくる新しいことを敏感にキャッチし、自分の研究とリンクさせることが大切な研究において、その柔軟な性格や考え方が存分に生きている。
研究の楽しさは「わからないことだらけの中で事象を組み立てた仮説が立証したとき」にあり、その達成感は大きい。
新しい発見があれば研究は進んでいくため、辞めたいと思ったことはないという。
「時間とお金をかけた研究がふいになったら辛いけれど、そんな中でも発見が何かあれば次につながる」と常にポジティブに捉え、真剣に研究と向き合う根幹にあるのは「人を助けたい。人の役に立ちたい」という強い気持ちだ。
「若い日本の学生には自分でアイデアを出せと言っている。日本はリーダーシップの養成が必要。将来チャンスがあればそれを実現して、日本の科学技術に貢献したい」
将来的には「日本の医学・歯学の高等教育に携わりたい」という。米国のPhDや研修医の教育システムを日本に取り入れたいと話す