米国ニットータイヤ presents Weekly LALALA Special Interview
日本とアメリカを繋ぐ
プラットフォームであり続ける
海部 優子 Yuko Kaifu
ジャパン・ハウス ロサンゼルス館長
チャイニーズシアターやアカデミー授賞式会場ドルビーシアターがひしめくハリウッドの中心に2018年にグランドオープンしたジャパン・ハウスロサンゼルスが8月、5周年を迎えた。今回は、館長を務める海部優子さんにジャパン・ハウス ロサンゼルスの役割についてや、自身のこれまでの歩みにまつわるお話を聞いた。
海部さんが館長に就任したのは、ジャパン・ハウス ロサンゼルス設立のプロジェクトが進められていた2016年1月だった。「館長の役職のお話をいただき、初めに『ハリウッドにジャパン・ハウスを作る』と聞いた時は、内心この場所でプロジェクトを成功させることができるのだろうかと自問自答しました。なんといってもここは、世界中の人々がハリウッドスターの手形やウォーク・オブ・フェームを観に集まってくるアメリカの観光地です。そこで『日本を紹介する』ことのイメージを自分の中で描くことが難しかったのです。それから5年前にオープンして以来、試行錯誤を重ねながらジャパン・ハウスではアートや食文化、映像、音楽など様々なイベントプロジェクトを通じて、このハリウッドから『日本』を発信してきました。新型コロナも終息してようやく今、その手ごたえをしっかりと感じられるようになりました。現在では、イベントを開催するたびに多くの皆様にお越しいただき、コミュニティの一員として受け入れてもらえたことを実感しております」。昨年開催した「ラーメン丼展」の関連プログラムとして実施した日本のラーメンのポップアップでは、約9000人の来場者を集めた。「イベントは、単に注目を浴びるとか楽しいとか美味しいだけではなく、何を伝えたいのかというメッセージ性が大事だと思っています。例えばラーメンについても、ただ食べて終わるのではなく、ラーメン文化の歴史や地域性、ラーメンの器に使われている陶芸デザインや伝統工芸に至るまでを知っていただけるイベントをお届けしていきたいと考えております」
世界観広げてくれた「英語」との出会い
現在は、ジャパン・ハウス ロサンゼルス館長として知られる海部さんだが、その長年のキャリアは、外務省から始まり、在ロサンゼルス日本国総領事館領事、全米日系人博物館副館長、ユニオンバンク広報部勤務を経て、現在に至る。それぞれのフィールドは違えど、常に「日本と米国を繋ぐ」使命を持って歩んできた。
兵庫県神戸市出身。弟2人、妹1人の4人兄弟の長女として育った。「両親は書店や薬局、音楽教室を経営し忙しい家庭でしたが、母は独身の頃に熊本で学校の教師をしていたこともあり、しつけには厳しいほうでした」。子供の頃から弟妹の面倒をみたり、仕事で忙しい母の代わりに料理を作ったりも。近所のガキ大将たちと走り回って遊ぶ活発な子供でもあったという。小学校の中学年になるとバレー部に入って夢中でプレーするスポーツ少女であり、音楽や絵を描くのが好きで、ピアノやフルート、絵画教室にも通った。実家が書店だったこともあり、本を読むのが好きで子供の頃に文学小説をよく読んだ。
そんなアクティブな少女だった海部さんの世界観をさらに広げたのが「英語」との出会いだった。「ある日、絵本を見ていたら、きれいな朝日の絵が目に飛び込んできたんです。そこには日本語で『なんてきれいな朝でしょう』、その下に英語で『What a beautiful morning it is.』と書いてありました。子供心にその言葉がなんだか素敵だなと感じたのを覚えています。それが日本語以外の言語があることを知った瞬間でした」。高校時代には部活でESS(英語クラブ)に所属し英語スピーチなどもするようになった。同時にアメリカなど外国人との交流を持ち、海外のカルチャーにも触れるようになった。国際的な進路を目指し始めたのはこの頃だ。「今の日本では女性にも門戸が開かれ、民間企業でも能力や情熱があれば活躍の場を掴むことができますが、私が学生の時代は、まだまだ女性が対等に働ける社会ではなかった。そんな中で、世界に開かれた外務省で働きたいと思うようになりました」
外務省入省、カナダへ
奈良女子大学文学部を卒業後に外務省に入省、ここから外交官キャリアがスタートする。最初の年は文化交流部に配属され、2年目に在外研修のためカナダに渡った。「外務省に入省すると外交官育成のための在外研修を受けます。新入省員はそれぞれ担当言語を割り当てられ、その言語を母国語とする国で研修を受けたり駐在します。私の担当言語は英語で、在外研修先はカナダでした。東海岸のキングストンという町のクイーンズ大学の大学院で社会学を学びました。故・高円宮殿下が留学された大学でもあり、街全体がプリンスを慕う親日でフレンドリーな雰囲気。充実した学生生活を送ることができました」
同大学で修士号を取得後はカナダ大使館に勤務した。「私はもともと政務班を希望していましたが、女性は文化関連の部署に配属されるのがその時代の風潮でした。上司である大使からは『半年間様子をみて、君が本当にできるのならば政務を担当させよう』と言われ、半年後に私は政務班に移りました。そこで重要な仕事は書記官としての役目。いわゆる日本とカナダ外務省とのリエゾン役です」。大使がカナダ外務省の幹部と会談する時には必ず同席し、会談の内容をまとめて報告書を作成、日本に提出するのは海部さんの仕事だ。「その時、大使に言われたのは、『君は、僕がカナダの要人と話した内容を大使になったつもりで報告書を書かなければならない。新米の書記官としてではなく、日本とカナダの外交を担う大使の立場に立って責任を持って書きなさい』と。国と国との間に立つ者として、必死に勉強し報告書に向かいました。その大使は非常に厳しい方だっただけに、自分を認めてくださった時には本当に嬉しかったですね」
カナダから帰国後は、外務省の北米局や文化交流、経済協力、総合外交政策など様々な部署で任務にあたった。北米一課で日加関係担当を務め、その後、経済協力局では発展途上国への無償資金援助の実施に携わった。資金援助に際して現地バングラデシュを訪問した時には、子供までもが物乞いをする極貧状態を目の当たりにした。
ロサンゼルスで「在米日系人リーダー訪日プログラム」の立ち上げに尽力
2001年には、在ロサンゼルス日本国総領事館に赴任、政務や総務の担当のほか、日系担当領事として日系人と日本の絆を深める「在米日系人リーダー訪日プログラム」の立ち上げに携わった。
「領事としての大きなミッションの一つに、日本と在任地との関係の強化があります。日米関係には強い結びつきが構築されていますが、日本とアメリカの狭間に置かれた日系人の方々と日本との関係は当時は緊密なものではありませんでした。アメリカ生まれの日系二世や三世、四世の皆さんはアメリカで活躍されています。しかし、祖先のルーツは日本であるにもかかわらず日本を訪れ日本文化に触れる機会のない方もたくさんいらっしゃいます。そんな日系人と日本を繋ぎ、絆を深めようと立ち上げたのが『訪日プログラム』です。このプログラムでは、日本を観光するのではなく、有識者を訪問して意見交換を行ったり、日系人の歴史などをテーマにしたシンポジウムやプレゼンテーションを行うなど精力的に交流を図ります。このプログラムに参加することにより、多くの日系人の皆さんが新たに自身のアイデンティティを見出したり、日本人や日本への理解を深めておられます」
外務省から民間企業へ
「日系人と日本を繋いでいきたい」海部さんのその思いは強く、外務省での異動時期が近づく中、もっと時間をかけて日系人と日本との絆づくりを続けたい気持ちは膨らんでいった。ちょうどその頃、全米日系人博物館館長を務めていたアイリーン・ヒラノさんからの誘いもあり、外務省を辞めて同博物館の副館長に就任した。
その後、日米関係の強化を目的とするノンプロフィット組織「米日カウンシル」が発足し、アイリーン・ヒラノさんやその他のボードメンバーが同組織に移るなど組織の変革などもあり、海部さんは民間企業である「ユニオンバンク」に転職、広報担当の幹部として勤務した。「ご存じのように同行は今年買収されましたが、もともとコミュニティに恩返ししたいという〝ギビングバック・ツー・コミュニティ〟の意識の強い銀行であり、私はそこに大きな魅力を感じていました。ユニオンバンクの歴史を辿ると、戦前は横浜正金銀行として米国で営業していましたが、戦後にアメリカで再び銀行を設立しようとした際に日系人の方々からのサポートを得て実現できたという経緯があります。この『コミュニティへの恩返し』という企業文化は、日系人の方々への感謝の気持ちの表れでもあったのだと思います。実際に働いてみると、アメリカ的な企業文化と日本の企業文化が共存していて、それまで経験したことのない環境でした。アメリカ人の価値観や物の考え方に触れられるなど多くを学びました」
ポケモン×工芸展 ― 美とわざの大発見 ―
ジャパン・ハウス ロサンゼルスで開催。70作品以上が集結
ジャパン・ハウス ロサンゼルス 2階ギャラリーにて、「ポケモン×工芸展 ― 美とわざの大発見 ―(英語タイトル:POKÉMON X KOGEI | Playful Encounters of Pokémon and Japanese Craft)」(以下、ポケモン×工芸展)が7月25日にスタート、2024年1月7日まで開催されている。
ポケモン×工芸展は今年3月から6月まで石川県の国立工芸館で開催され、アメリカでは初の公開。人間国宝から注目の若手まで日本を代表する20名のアーティストがポケモンに向き合い、作品を通してポケモンの世界観や、工芸の伝統美・可能性などを表現。展示は、ポケモンのフォルムやいでたちを細部までこだわり作品に命を吹き込んだ『すがた』、冒険や進化を創造する『ものがたり』、現在の生活にポケモンが溶けこんだ『くらし』の3部構成。漆工、陶磁、染織、金工など多種多様な工芸の素材や技法を駆使した70点以上の作品が並ぶ。
「ポケモン×工芸。ポケモンと工芸が出会い、その二つの魅力が掛け合わせられることにより一体どんな素晴らしいものが生まれるのか・・・。化学反応によって新しい創造の世界が広がるのではないか!というワクワク感や期待を感じずにはいられない初めての取り組みです。ぜひ足を運んでいただき、その感動を受け取っていただけたらと思います」。
【出品作家】
池田晃将、池本一三、今井完眞、植葉香澄、桂盛仁、桑田卓郎、小宮康義、城間栄市、須藤玲子、田口義明、田中信行、坪島悠貴、新實広記、林茂樹、葉山有樹、福田亨、桝本佳子、水橋さおり、満田晴穂、吉田泰一郎 [五十音順]
開催期間:2023年7月25日~2024年1月7日
開館時間:平日11am~7pm・週末11am~8pm
入場料:無料
会場:ジャパン・ハウス ロサンゼルス2階ギャラリー(6801 Hollywood Blvd. Level2 Los Angeles CA 90028)
www.japanhousela.com
(8/15/2023)