「ジャンクフード・ビュッフェ」で摂る栄養補給

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Vol.52 ▶︎吐きたい、ムカムカ。もう疲れちゃった~

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昼夜走り続けるウルトラマラソンでは、メンタルのアップ・ダウンは付き物だ。ただ、アップ無しのダウン・ダウン・ダウンはさすがにキツイ。全行程の三分の一にも満たない30㎞地点で既に「面白くないなぁ感」が全身を覆っていたが、それに輪をかけたのが胃の不調だった。 私の場合、通常レース中の栄養補給食はほぼすべて持参し、水以外はエイドステーションに頼らない。今回は「夜通し走る100マイルじゃないし大丈夫だろう」という事で、エイドステーションでの栄養補給食で全て賄う、という新たな試みで臨んだ。

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主食となるのはピーナツバター&ジェリーサンドイッチやポテトチップス。時にはケサディージャ。カロリー満載のジャンクフードのビュッフェだ。それらをスイカやバナナと一緒に口に押し込み、生温かいコーラで胃袋に流し込む。ムシャムシャ・モグモグと口を動かしながら少し気になっていた事があった。後になって、その不吉な予感が現実のものとなる。 遡ること数年、トライアスロンをしていた頃。数時間で走り切る42㎞のマラソンと異なり、アイアンマン・レース(スイム3.8㎞+バイク180㎞+ラン42㎞)ともなると10数時間に渡って動き続けることになる。その間の栄養補給は極めて重要で、それを怠るとハンガーノックと呼ばれるガス欠の症状で、ぱったり動けなくなる。補給食の好み、と言うかあう合わないは千差万別で、自分に何が合うかは各々が見極める必要がある。私も何種類ものブランドやフレーバーのジェルは勿論の事、おにぎり、サンドイッチ、チューブ入りの梅など、これでもかと言うほど色々なものを試した。スイムの直前、バイクに乗りながら、更には走りながらと場面も多様だ。甘いジェルは数時間摂り続けても何とか耐えられた。梅は塩分補給には有効だが口の中が酸っぱくなってダメ(当たり前の様だが試してみないと分からない事も稀にある)。

プロテインを多く含む食べ物やドリンクを摂った後は吐いた。そうやって、自らの体で人体実験を繰り返し、効果的な栄養補給方法を身に着けていった。 話をエイドステーションのジャンクフード・ビュッフェに戻そう。容易にエネルギー補給をするために、まず手に取ったのは、いかにもカロリーが高そうなピーナッツバター&ジェリーサンドイッチ。ピーナツバターの独特な味が口の中に広がるたびに、「プロテイン大丈夫かなぁ」、と言う一抹の不安が、トーストにバターを塗るように頭に広がった。それを打ち消すように、既に何年も経っているし、当時と比べると場数も踏んでだいぶタフなトレイルランナーになっている筈だ、と自分を騙し騙し、胃袋にジャンクフードを流し込んだ。しかし、物事が思ったようにいかないのは世の常。暫くして深刻な症状が表れはじめた。「プロテイン・アレルギーによるゲロ吐きそう病」(本当はアレルギーでも何でもない)、そして炭酸飲料水の摂取過多による、「腹部パンパン・ゲップ症候群」。”タフ”なトレイルランナーは、あっという間に見る影もない惨めな姿へと変貌した。 序盤からの原因不明のダラダラ・ニョロニョロに加え、不調を訴える胃腸。

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エイドステーションのスタッフたちにどれだけ励まされたことか
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これまでの経験で培ってきたランナーとしての自信という鎧が剥がれ落ちるのに、長い時間は要さなかった。道半ばで自信を喪失したランナーの心の内はと言うと、毛皮を刈り取られ、ピンクの肌をさらけ出す可哀そうな羊・・・の様な気持ち。太陽は漸く頭上に差し掛かったばかり。そこからトボトボと長~い彷徨いの道が続く。時に歩き、時に走り、時に胃の不調に耐えきれず立ち止まり・・・60㎞付近だったろうか、知り合いの日本人ランナーと擦れ違った頃が不調のピークだった。折り返しのルートをいち早く戻ってきて、颯爽と駆ける姿が視界に入る。何とか笑みを作り元気に声を掛けようとしたが、発された唯一の言葉は、「もう疲れちゃった」の情けない一言。タフさの欠片もない。

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(2/28/2023)


 

Nick D (ニックディー)

コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈け回る毎日。「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。

http://nick-d.blog.jp

 


 

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