世界的なホームレス都市、ロサンゼルス 新市長が「Inside Safe」を掲げ、動き出す

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アメリカ101 第165回

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いよいよロサンゼルス市が本気で、アメリカ第二の都市の「恥」であるホームレス危機への対応に乗り出しました。12月12日付で正式に第43代市長に就任したカレン・バス(69)が緊急事態を宣言、市を挙げて取り組む姿勢を明らかにし、「Inside Safe」(屋内で安泰な生活を)というスローガンのもと、市内だけで4万1000人、ロサンゼルス郡全体では6万9000人というホームレス・ピープルの解消に向けて、郡当局との連携で包括的な施策を打ち出す方向です。

ロサンゼルスの241年にわたる市政で、初の女性市長であり、黒人としては、第38代のトム・ブラッドリー(1973年―93年)に次いで二人目という歴史的な首長であるバスは、11日にダウンタウンのマイクロソフト・シアターでの盛大な就任式に臨みました。「史上初の女性・・・」ということでは先輩格のカマラ・ハリス副大統領を来賓に迎えて行われた式典には、人気歌手のスティービー・ワンダーや、2021年1月のジョー・バイデン大統領就任式で、全米青年桂冠詩人(Poet Laureate)として自作の詩を朗読したアマンダ・ゴーマンが出席、華を添えました。ゴーマンは「意志あるところには道あり」(Where there’s a will, there’s a way)という諺を引いて、「意志あるところには女性があり、そして女性があるところには常に道がある」として、ロサンゼルス初の女性市長の誕生を祝福。

ロサンゼルスは現在、歴史的な転機に直面しているといわれます。表面的には、映画産業を中心とした「世界エンタメ業界不動の首都」であり、2026年には、次回のサッカー・FIFAワールドカップ、2028年にはオリンピック夏季大会といったスポーツの世界的なビッグイベントが控えています。ワールドカップはカナダ、メキシコとの3カ国共同開催で、合計16都市で試合が行われますが、決勝戦はSoFiスタジアムが会場となるとみられており、ロサンゼルスの「世界のスポーツ首都」としての地位を不動とするものです。しかし同時に、「世界的なホームレス都市」という不名誉なタイトルもあります。

ホームレスの具体的な定義はさまざまですが、一般的には定まった住居がなく、路上や車上などで生活する人々を指すとされており、アメリカでは住宅・都市開発省(HUD)の最新統計によると約55万人。このうち65%が施設に収容されていて、残りの35%が広義の路上生活者とのこと。特にロサンゼルスについては、クルマで往来することが多い生活スタイルから、ダウンタウンのリトル東京に隣接するスキッドロウや市内各所で路上生活者で目立つなど容易に目撃できることもあって、ホームレスが多いという印象が強くなっています。ロサンゼルスでは、「住居がない」という意味での「unhoused」の人数が前述の4万1000人とされており、このうちシェルターなどの施設に一時的に収容さているホームレスを除いた、路上生活者などの「unsheltered」(シェルターに収容されていない人々)として分類されるのが2万8000人です。バス市長は初年度には、これらの人々のうち1万7000人を「Inside Safe」の対象として、ダウンタウンにあるロサンゼルス・グランド・ホテル(500室)などの既存のホテルやモーテルを利用、ホームレス解消に向け動き出しました。

アメリカでの世論調査では、しばしば「(世の中が)正しい方向にあるか」という設問があります。ロヨラ・メリーマウント大学(LMU)の世論調査組織「StudyLA」が今年初めに実施した「ロサンゼルスが正しい方向にあるか」との調査では、2012年以来初めて「誤った(wrong direction)方向にある」が多数を占めたとのこと。今後、世界的なビッグイベントが相次いで予定されるロサンゼルスで、本来なら市民の間での楽観論が多いはずなのですが、「ホームレス都市」との認識が暗い影を落としています。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(12/13/2022)

 

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