超高齢化社会の日本で見た ”終活”の実態

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アメリカ101 第158回

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引き続き「日本通信」です。今回の4年ぶりの日本訪問は、近親者や旧友との邂逅が主な目的で、多くの方々との楽しいひと時を過ごすことができた一方で、それは同時に病気や死と直面する旅でもありました。

多くの方々が“後期高齢者”であることからすれば、それは当然のことと予期していたのですが、それでも厳しい現実に直面して言葉を失う場面もあり、日本での医療事情、ケアシステム、葬儀など、いわゆる“終活”の実態を知るという得難い経験をした次第です。

ロサンゼルスで知遇を受けて、長年のお付き合いのあと、日本での親族や医療事情などの関係で日本に戻られた方々のひとりで、筆者と同年輩の方に日本に到着直後に電話をかけました。奥さまが電話口に出られて、電話の趣旨を話したのですが、いくぶん口ごもられて、「実は電話に出られないので・・・」と言いながら、実はご主人が認知症で通常の会話ができない状況にあるとのこと。新型コロナウイルス禍もあって、交信がしばらく途絶えていたのですが、その間に症状が進んだようです。また親族関係では、しばらく施設でケアを受けていた義妹が亡くなった直後に、そのアパートを訪れて焼香するということもありました。

さらに、前回の日本訪問のあとに、同世代の実弟や義弟が病気で命を落としており、その墓参りをすませるのも訪日の目的でした。東京郊外多摩地区丘陵にある広大な墓地は整備されて、伝統的な墓石が併立する一角に「佐藤家の墓」があります。ところが義弟の場合は、新たに一家の墓ということで、都心に近い住宅地に某宗派の寺院に納骨されていました。しかし“お墓”は墓石の並ぶ墓地ではなく、寺院の地下に設けられた納骨施設で、「室内供養堂」という呼称です。

参拝者は受付で故人の名前を告げると、“お墓”と対面するためのブース(参拝エリア)に案内されます。そこで座ってしばし待つと、正面の大型タブレット状の画面に、「XXX家」という表記の“墓石“が表示され、同時に左側の小さなタブレットのモニター画面に本人の遺影が映るという仕掛けです。この“お墓“は、「遺骨収蔵厨子」という箱型の容器で、この施設では最高8体まで収蔵可能とのこと。
家族数世代の遺骨が一緒に収蔵されるわけで、「光をモチーフにモダンな空間を演出したデザイン」「柔らかな光を織りなす照明とガラスのパーティションによる広く明るい空間」とされる参拝室で、雨風に関係なくお参りができる次第です。このお墓のコストは、永代使用権(80万円)に加えて護持会費が年額1万5000円。最寄りの地下鉄駅から徒歩数分という便利な場所で、それこそ通勤の行き帰りにちょっと寄っていくことができるというのがセールスポイントのようです。

そして、セールスポイントといえば、池袋駅から電車で30分弱にある実妹宅に泊まったのですが、そこである朝配達されてきた新聞の織り込み広告のひとつが、お葬式の広告でした。「火葬式(直葬)プラン」という見出しのチラシ。大きく赤色で目立つように印刷された「会員様セット料金18万円」という惹起の文言が目立つ“葬儀コンサルタント”企業が運用する会員制の葬儀プランです。

「直葬」とは聞き慣れない表現ですが、通夜や告別式をせずに、「安置室」という場所で近親者などによる簡易なお別れを終えたあと火葬場に送り届けるというサービスのようです。これにはお棺や骨壺、霊柩車、旅支度一式、祭壇、枕飾りなどに加えて、寝台車・霊柩車が待機し、自宅ではなく、2日間の「霊安室」を常備、そこで故人との別れを済ませたあと火葬場まで
の移動が含まれているとのこと。これには火葬場関係費用や生花、メイク、返送品、料理は含
まれていませんが、それらについても専門スタッフが相談に応じることを謳っており、葬儀社
並みの相談は受けられるようで、日本ではビジネスとしての葬儀も急速に変化を遂げているこ
とが伺えます。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(10/25/2022)

 

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