連載・コラム アメリカ101

アメリカ101

  • 第56回 

大統領選 勝敗を左右する選挙人数の過半数は

どちらに?


 

    第56回 大統領選 勝敗を左右する選挙人数の過半数は どちらに?  

    2020年10月27日 アメリカ101

     このコラムが読者の皆さんの目に触れるのは、大統領選挙を含む今回のアメリカでの“総選挙”投票日まであと数日という時点でしょうが、そのような選挙戦大詰めにあたり、これまで断続的にフォローしてきた一連のコラムの総括として、2回にわたり注目すべきいくつかの見所をピックアップしていきます。     まず大統領選ですが、民主党のジョー・バイデン前副大統領が得票数では共和党のドナルド・トランンプ大統領を上回るのは確実のようです。問題は勝敗を左右する選挙人数の過半数(270人)獲得をできるかです。コラム第54回で紹介した「ファイブサーティエイト」のシミュレーションでは86%の確率でバイデン勝利という数字です。また世論調査を一切使わず、「中間選挙」「短期・長期経済見通し」「社会不安」「スキャンダル」「カリスマ性」など、13の独自の指標を駆使して現職大統領あるいは政権政党について「イエスかノー」という単純な判断で、「ノー」が6以上であれば、対立候補が当選するという分析手法を1980年に開発、1984年から2016年までのすべての選挙結果を的中させたことで有名なアメリカン大学のアラン・リクトマン教授も、ことし8月に早々と「トランプ落選」とのご託宣を明らかにしています。     一方正統的(Legitimate)な世論調査機関やメディアのうち、「トランプ勝利」をストレートに予想する向きはほぼ皆無で、「苦戦だが再選への道はある」と指摘するのがせいぜいです。例えば、一貫してトランプに好意的なウォール・ストリート・ジャーナル紙でさえ、同紙論説室のジェーソン・ライリー論説委員・コラムニストによる「トランプ勝利は雷が同じ場所に2回落ちるようなもの」(Lightning Will Have to Strike Twice for Trump to Win)(10月21日付)との見出しで、トランプ苦戦が続いている情勢を指摘、起死回生には「最後のチャンス」である22日の第2回目のテレビ討論会での「冷静な政策論争」が不可欠だと強調しました。そして、「討論会でたとえどれだけうまく振舞ったとしても、少なすぎるし遅すぎるかもしれない」と締めくくっているのは、ジャーナリストとしての矜持を披歴したのかもしれません。同紙では、このような見方を受けたように、ロナルド・レーガン大統領のスピーチライターを務め、保守主流派コラムニストとして毎週同紙に執筆しているペギー・ヌーナンさんが、「まだ終わりでなければ、トランプにとっては見事な一夜」(A Good Night for Trump if It's Not Over」(10月24日付)との見出しで、「(トランプは討論会で)勝利した。素晴らしい勝利ではないものの、今後とも選挙戦を戦い続けていく糧となる勝利だった」と、最初の討論会からの変身ぶりを高く評価、トランプが息を吹き返したとして、再選へ向けた巻き返しの契機となるものと指摘しています。     ヌーナンは教条的ではない、柔らかい語り口のジャーナリストとして知られ、毎週土曜日に掲載される「直言」(DECLARATION)は同紙の人気コラムです。この日も、対立候補バイデンが47年間にわたり連邦政府の枠内で活動、しばしば「硬直したお役人口調」で喋るのに対して、トランプは「普通の人」のように喋り、聞き手は頭の中で無理に理解しようとする必要がない点を魅力として挙げています。そして、支持率が低迷する中、激戦州各地での大規模な遊説集会では、参加者の間ではトランプ劣勢を反映するような雰囲気が一切見られないのに対して、バイデン支持層の間では「勝利感」(Trumphalism)がまったく欠如しているとし、支持層の熱気の違いを強調して、「まだ選挙戦が終わったわけではない」との結論を引き出しています。   

  • 第55回 
政治資金集め? 
カリフォルニア州は大統領選挙のATM

 

    第55回 政治資金集め? カリフォルニア州は大統領選挙のATM  

    2020年10月20日 アメリカ101

      さしずめ「手元不如意で、そそくさと近くのATM(現金自動預け払い機)に駆け足で飛び込んだ」ということでしょうか。投票日まで10日ほどしかない大統領選の終盤とあって、共和党ドナルド・トランプ大統領と民主党ジョー・バイデン前副大統領の両候補にとっては文字通り「いくつ身体があっても足りない」という超多忙の遊説の毎日なのですが、先週末18日に激戦州とされるネバダ州を訪れ、ラスベガスで数千人規模の熱烈な支持者を集めた会場で支持を訴えたあと、オレンジ郡のジョン・ウェイン空港に降り立ち、高級邸宅が立ち並ぶロングビーチにあるリド島(Lido Isle)で開かれた選挙資金集めを目的としたイベントに3時間弱にわたり顔を出したあと、ネバダ州に戻りカーソンシティで遊説をこなしたトランプの1日です。     「カリフォルニア州は大統領選挙のATMだ」と言われます。連邦下院議員53人、連邦上院議員2人で構成される同州の選挙人団ですが、1968年から現在までの半世紀では、前半は一貫して共和党候補が勝利、後半は民主党が勝利というパターンです。共和党のリチャード・ニクソン、ロナルド・レーガン両大統領とも州出身で、カリフォルニアは長年保守色が濃い政治風土でした。しかし近年メキシコ系を中心とするラティーノ人口が急増する一方で、ピート・ウィルソン知事(1991-1999)に象徴されるように共和党が非合法移民を含む移民増へ否定的な対応をとったことで支持者を失い、ラティーノが最多人口を占めるという最近の状況下で、カリフォルニア州は民主党の半永久的な“牙城”へと変身しています。     この結果、ビル・クリントン・アーカンソー州知事が現職のジョージ・H・W・ブッシュ(第41代)を破って当選した1992年の大統領選挙以来、前回2016年選挙まで民主党候補が連続7回勝利しています。それ以降「カリフォルニア州は民主党が圧倒的に有利」が当たり前となり、全米最大の人口を抱えながら大統領選挙では「蚊帳の外」に置かれてしまい、「政治面でのカリフォルニア州の魅力」は政治資金の“豊饒な源”、すなわちATMになったということです。党派を問わず大統領候補は票田としてのカリフォルニア州ではなく、カネ(選挙資金)のために訪れるだけとなっているのを象徴するのが、先週末のトランプのロングビーチ訪問でした。     このところトランプ陣営は選挙資金面で民主党に大きく後れをとっています。連邦選挙委員会(FEC)によると、今年9月中にバイデン陣営は3億8300万ドルを集めたのに対しトランプ側は2億4700万ドル、そして10月現在の手元現金は4億3200万ドル対2億5100万ドルです。この違いが最終的な選挙結果に響くのかははっきりしませんが、トランプ陣営にとっては士気にマイナスの影響を与えるのは間違いありません。バーチャル・リアリティ(VR、仮想現実)ヘッドセット商品化を成し遂げ、弱冠21歳で億万長者となった天才的な少壮発明家/実業家パルマ―・ラッキー氏(28)の邸宅での資金集めイベントでは最低2800㌦、最高レベルなら15万ドルというのが“協賛金”のようですが、集まったおカネの総額は明らかではないものの、トランプ陣営には「shot in the arm」(カンフル剤)にはなったのでしょう。オレンジ郡は1889 年に白人優越主義者が主導してロサンゼルス郡から分離して成立した自治体で、1930年代のニューディール時代以降、19回連続で大統領選では共和党候補が勝利してきた「保守派の岩盤」でした。だが2016年大統領選でヒラリー・クリントン国務長官に得票率で8ポイント差で敗れ、また2018年中間選挙では、郡内の7つの連邦下院議員選挙区で全敗を喫しています。選挙戦終盤でのトランプによる個別候補へのテコ入れ遊説があれば、いくつかの選挙区での議席奪回の可能性が高まったかもしれませんが、「カネ集め」だけの訪問にとどまったことでどうなるか、結論は11月3日に出ます。       著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。      

  • 第54回 

2016年の大統領選を的中させた
「ファイブサーティエイト」が予想する
2020年大統領選の行方

 

    第54回 2016年の大統領選を的中させた 「ファイブサーティエイト」が予想する 2020年大統領選の行方  

    2020年10月13日 アメリカ101

    今回のアメリカでの“総選挙”の焦点は、11月3日(火)の投票日を3週間後に控えた時点で、「民主党の“完勝”なるか?」となってきました。ここでの“総選挙”とは、最も注目を集めている大統領選挙に加えて、連邦上下両院、さらには州知事、州議会から教育委員会といったアメリカで同時に実施されるさまざまな選挙を便宜的に総称したものですが、連邦政府レベルでの選挙であるホワイトハウスと連邦議会上下両院の3つの選挙で、共和、民主いずれかの政党が、すべてを制覇することを“完勝”と表現しました。そして、今回の選挙では、過去の世論調査で高い評価を得ている世論調査機関「ファイブサーティエイト」が、ドナルド・トランプ大統領が敗退するだけでなく、与党・共和党が上院で議席過半数を割る少数党に転落する一方、下院では野党・民主党が過半数議席をキープして、「民主党完勝」の確立が63%とする予想を発表、独自の統計操作で高い確率でが選挙結果予想を発表して注目されています。前回の“完勝”ケースは、トランプが率いる共和党が上下両院で過半数の議席をキープしただけでなく、ホワイトハウスを奪回した2016年の選挙です。     「ファイブサーティエイト」が数ある世論調査機関の中で一目置かれているのは、独自の統計方法論を採用、一般的な世論調査に加えて、党派別支持率、選挙資金、現職かどうか、人口統計、専門家の予想などの要因を勘案して確率を算定する手法が斬新であり、2008年と2012年の大統領選挙で「大統領選挙人区」について、ほぼパーフェクトな党派別内訳を予測して、一般に知られるようになりました。とくに2012年には、民主党のバラク・オバマ上院議員(当時)と共和党のミット・ロムニー・マサチューセッツ州知事(当時)が争ったのですが、投票日当日の朝に「オバマ当選の確率90.9 %」を打ち出す大胆な予想で驚かせました。「538」という数字を名称を採用したのは、創立者ネイト・シルバー氏(42歳)が、大統領選挙の行方を確率で予想するシステムを考案したのを受けたもので、50州プラス首都ワシントンDCの選挙人数が538人であることを意味しています(そして、その過半数である270人以上の選挙人を獲得した候補が当選となります)。シルバーは名門シカゴ大学を卒業、イギリスのスクール・オブ・エコノミクスで学んだ天才的な統計学者で、米メジャーリーグ(MLB)プレーヤーの成績データを解析、個々の選手の活躍ぶりを統計化して知られるようになり、2009年にはニュース週刊誌「タイム」の「世界で最も影響力の’ある100人」に選ばれています。     2016年の大統領選挙では、大部分の大手世論調査機関が「ヒラリー・クリントン圧勝」を予想して“総ざんげ”する有様で、「538」も例外ではありませんでした。しかし、他社が85%から99%の確率で「クリントン勝利」としたのに対して、「538」は確率71%とし、「トランプ当選の確率は29%」と比較的高い数字を打ち出し、「面目丸つぶれ」を回避した結果となりました。今回は、10月7日に最新の予想として、「大統領選ではバイデンは、圧倒的とは言えないものの、確固とした(solid)リードを保っている」「上院は民主党が過半数確保でいくぶん優位」「下院は92%ないし97%の確率で過半数維持」と予測、連邦政府レベルでの民主党の“完勝”の確率が63%だとして、来年からの“民主党政権”は”医療保険制度改革強化、警察改革、選挙制度改革、さらには首都ワシントンおよびプエルトリコの州昇格などに取り組む糸口をつかむだろうと指摘しました。しかし同時に、世論機関の常套的な「逃げ道」として、共和党が上院で過半数を維持する確率が31%であると強調しており、つまるところは「選挙は水物」という日本での警句を思い出せば、「政治は面白い」ということでしょうか。     著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。      

  • 第53回
カリフォルニア州知事 ギャビン・ニューサムは独裁者なのか?
加州とトランプ政権の反目

 

    第53回 カリフォルニア州知事 ギャビン・ニューサムは独裁者なのか? 加州とトランプ政権の反目  

    2020年10月06日 アメリカ101

     「ここ数年、ドナルド・トランプ大統領が独裁者みたいに振舞っているとの批判があるが、カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムは独裁者そのものだ」「「環境に優しい電気自動車(EV)、電気自動車というけど、クルマのバッテリーが電力を生み出すわけではない!」「猛暑が続いて各地で間欠的な停電が続いたが、このままでは寒い日にも停電になってしまう」「何百万台というEVが一斉に充電したら停電が日常的なものになりかねない」「知事行政命令といった非常措置をとるなら、カリフォルニア州での新型ウイルス禁止令を出すほうがましだ!」などなど。ニューサム知事が9月23日に発表した「15年後の2035年にガソリン駆動乗用車・SUVなどの小型トラックの新規販売を禁止」という行政命令に対する新聞各紙投書欄での懐疑派の言い分あらすじです。州政府レベルでの環境問題への取り組みで先端的な役割を演じるカリフォルニア州の最高指導者らしい、思い切った措置で、環境保護推進派からは高く評価する声があるものの、投書欄にみられる反対論や、自動車業界、石油精製業界など、直接大きな影響を受ける業界では「性急すぎる」という声が強く、「気候変動対策を加速させるために、州政府として採用できる最も影響力のあるステップ」と自賛する同知事に試練が続きます。     知事行政命令という、州議会承認が必要がない思い切った施策ですが、2035年の目標年次までに思い通り進むのか、紆余曲折があるとみられています。当面は、「州内で販売される乗用車・小型トラックは、EVなど排ガスを出さないゼロエミッション車とする」との知事命令に基づいて、州全体の環境行政を担当する「カリフォルニア大気資源局(CARB)」が、どのような規制を設けて実現するための道筋を画定することになります。    しかし現時点では、一般トライバーにとっては、知事命令が出たからといっても、別に影響はありません。たとえば、現在保有しているクルマを、そのまま大事に長年運転するつもりにしていて、期限の2035年になっても廃棄処分にする必要はなく、運転を続けることができるほか、その後も自由に中古車として売買が可能です。     アメリカでの環境保護関連施策は、他の行政分野と同様に、各州の自治権を大幅に認めた連邦国家であるため、各州まちまちとなっており、カリフォルニア州のように最も厳しい規制を採用している州から、連邦政府の最小限の環境基準にとどめる州まで、さまざまです。だが2017年に、環境保護問題に消極的で、経済振興を最優先させるトランプ政権が発足したのに伴い、カリフォルニア州のような“環境先進州”との軋轢が生じています。その典型的なケースは、自動車の排ガス規制をめぐる対立です。「カー・カルチャー」でも知られるカリフォルニア州は、4千万人の人口を抱え、クルマの販売台数や保有数が最も多い「クルマ王国」ですが、自動車の排ガスによる大気汚染が大きな社会問題となってきた経緯から、近年歴代の知事が党派を問わず環境問題に積極的に取り組んできました。そして連邦基準を上回る厳しい独自の燃費・排ガス基準を設定しようとしたのですが、2018年8月にトランプ政権は州による独自の基準を廃止するなどを含む新規案を作成したことで問題がこじれ、訴訟に発展するなど、カリフォルニア州とトランプ政権の反目は強まる一方です。      トランプ政権のウィーラー環境保護局(EPA)長官は、2025年からのゼロエミッション計画について、「合法性や実現性で深刻な疑問生じる」(ロイター時事)とし、EV普及で電力需要増加が予想される中、今年8月の猛暑などの要因による「計画停電は前代未聞の規模だった」と指摘、ニューサム知事のEV加速施策に疑問を呈していますが・・・。        著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。  

  • 第52回
トランプの歴史的大英断
保守派として最適任の女性法律家を指名

 

    第52回 トランプの歴史的大英断 保守派として最適任の女性法律家を指名  

    2020年09月29日 アメリカ101

    「1カ月早いオクトーバー・サプライズだ」とされた、連邦最高裁判所(SCOTUS)で最もリベラル派のルース・ベーダ―・ギンズバーグ判事の死去(9月18日)が昔話のように感じられるほどの、ここ数週間の大統領選挙をめぐる目まぐるし動きが続いていますが、これから1カ月の「本当の驚愕の10月」、そして、その後の新たなサプライズがどんなものとなるのか恐ろしいほどです。     共和党と民主党の間では、大統領選挙の渦中に最高裁判事ポストに欠員が生じた場合、民意を反映するため、再選あるいは新たに選ばれた大統領と新しい構成の上院による指名/審理・承認のプロセスを進めるとの緩いコンセンサスが2016年に生まれました。それというのも、翌年1月に任期切れとなるバラク・オバマ大統領の後任を選ぶ大統領選挙中の同年2月13日に、最高裁で長年保守派の重鎮として影響力を発揮していたアントニン・スカリア判事が死去するという、今回と同様な状況が生じたのですが、結果的には、大統領による後任判事の指名および上院による審議/承認は、11月の総選挙(大統領・上下両院議員選挙)のあとに実施することになった“前例”ができたからです。    当時も現在同様に上院では共和党議員が過半数を占め、オバマ政権と対峙していたのですが、その指導者ミッチ・マコネル上院内総務はスカリア死去と同じ日に、オバマが誰を後任判事に指名しようとも、上院での審議/承認プロセスには一切応じないとボイコット声明を発表、すべては新大統領と新しい構成の上院に委ねるべきだとの態度を明らかにしました。しかしオバマは合衆国憲法の規定に基づくものとして、後任判事に中道・穏健派をされるメリク・ガーランド連邦高裁判事を指名したものの、共和党側はマコネルの意向で、承認に向けた公聴会/審議を一切拒否した結果、指名人事は293日間棚ざらしとなったあと無効になりました。年が明けて、共和党のドナルド・トランプ新大統領が2017年1月末に、保守派として定評のあるニール・ゴーサッチ連邦高裁判事を指名、上院多数派共和党の承認を経てスカリアの後任に就任、さらには2018年6月には中間派とされてきたアンソニー・ケネディ判事が引退したのを受けて、トランプは後任に保守派として知られるフレッド・カバナー連邦高裁判事を指名、議会の承認を取り付け、最高裁のイデオロギー色を鮮明に保守寄りに固めたわけです。     トランプにとって3人目となる最高裁判事指名人事は、2016年の大統領選挙での最重要公約の仕上げとなるものです。公約としては「メキシコ国境での壁構築」「医療制度改革法(オバマケア)の改廃」「大幅減税」などがありましたが、ギンズバーグの後任に「保守派として最適任の女性法律家(lawyer)」エイミー・バレット連邦高裁判事(48歳)を指名(10月24日)することで、今後の上院での承認を経て、「最高裁の脱リベラル化/保守化」への道筋を確実にしたわけです。共和党の中核的保守派は、これが数十年にわたるアメリカの国家としての方向性を左右する決め手となるとして、「合法であればなんでもあり」との判断で、後任指名がトランプの歴史的大英断としてもろ手を挙げての大賛成になりました。     2016年の前例を反故にされ、「マコネルにしてやられた」とみる民主党側は、「あらゆる手段を尽くして反対する」(チャック・シューマー上院院内総務)として全面抗戦の構えを強めており、今後の上院でのバレット指名人事審理(10月12日から)、大統領選を含む総選挙投開票(11月3日)、大統領選挙人による投票(12月14日)、連邦議会での選挙人投票の開票/当選者確定(1月6日)、就任式(1月20日)といった節目を中心とした「サプライズ」はまだまだ続く見通しです。      著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。